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ミナトシリーズ

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地上種、惑星種、天使たち。ミナトが住んでいる不思議な世界の日々を短編、掌編、詩で。(主人公ミナトは名前と自称「ぼく」以外、性別も年齢も不明です。読み手が考える人数分のミナトが存在…
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#短編小説

キンギョとり

 夏の強い日射しの下。通りを歩いていると、突然脇道から子供たちが飛び出した。わいわいにぎやかに、それぞれ虫取り網とビニール袋を持って、ミナトを追い抜いていく。
「まってえ」
 ちょっと遅れて、腰のあたりにひとりぶつかった。ビニール袋を握りしめた小さな男の子だ。ミナトを邪魔そうに押しのけるが、ふたり同方向によけるため、なかなか進めない。
 ミナトは右に左によけながら尋ねた。
「どこに行くの?」
「キ

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サクラ前線、走る。

 そのサクラに出会ったのはコントル河の中州だった。コントル河は広くて浅い河だ。水も澄み流れもおだやかで、夏となれば水遊びの地上種でいっぱいになる。
 しかし今年のコントル河は、まだ肌寒い時期だというのに地上種でいっぱいだった。それも水遊びではない。全員「サクラ前線」である。中州を陣取る大木を囲むように、誰もがめいめいのスタイルで一本の大木を見つめているのが証だ。
 サクラは樹齢二十年も超えると自走

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サクラのうた

 さくらの写真展を見に行った。大小あるパネルの薄紅色はどれも見事で、ミナトはすっかり目を奪われた。
 とくに目を引いたのは、一番おおきなパネルだった。日が射す谷間で咲き誇る大木が悠然と立っている写真。暗がりのなかで薄紅色はとても映え、谷いっぱいに広がった花に圧巻された。小振りのさくらの樹は見ても、大木はなかなか見ることはできない。
 しばらく見入ったあと、感嘆混じりにつぶやく。
「なんていうさくら

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