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「海をあげる」再読

故あって、もう一度、上間陽子さんの「海をあげる」を読んだ。
今回は音読という形だった。
なぜこの形を選んだのか。。
読み終わった今でも不思議な気持ちでいる。
なので、あらためて自分と向き合ってみることにした。


「海をあげる」を本屋さんで手にとったのは、何気なくでは決してなかった。
意識して「読まなければ」と思ったのだった。

そこに書かれていたのは、紛れもなく地元の日常であり、私が昔から、“できるだけ避けてきた”ことだった。
(※私のルーツは様々なので、上間さんと全く同じ境遇や地域ではありません)

「社会学」という研究を基に、沖縄の問題へのこんなアプローチがあるのか…という新鮮な驚きもあった。
いや、そういった分野があり、それぞれの研究者がフィールドワークをこつこつ積み重ねていたのは実は知っていた。しかし、どうしても手放しで受け入れられない、時間を要する自分がいた。
そんな「用心」を解いてくれた上間さん。やはり女性であるということ、出身が同じ沖縄であるということ、「調査」と言いつつ、子どもたち・女の子たちを1人1人たいせつに思い、尊重し、心を寄せ、人間として丁寧にことを進めようと努力している姿勢に共感したのだった。

最初に黙読し終わった時と、
今回、声に出して読んでみたのとでは、心理的な緊張度が違っていた。
黙読していた時は「嗚呼…これは私だったかもしれない」という当事者性が強かった。それを1つ1つ確認する体験。そして言語化すること自体の大切さをひしひしと感じた。

あらためて音読しようと考えたのは、最近知り合えた大切な方々、その中でも「県外の方に知ってもらいたい」という動機が、ふと浮かんだからであった。
既に読んだ方もいるはずと承知の上で、それでも土地の言葉や空気感、イントネーションを交えて。
足を止めてくださるのがたとえお一人でも…と何とか、「伝えることから」と必死だった。
「緊張」と書いたが、その正体はきっと、こちらの負の部分を開示する、そして訴える・お願いする…というリスクを孕んでいたからだと思う。

理解を示して足を留めてくれた方々を前に、まるで責めたり不満を吐露するようなことをする訳だから、これは本当に怖い。

我々島の人間は、国全体から言うと圧倒的に数は少ないし、場所も遠く、不便で端っこ、という位置づけにある。
複雑な歴史も背負っていて、とにかく他の地域へ理解してもらうのに、先ず腐心することから始めなければならない。
なのに一歩踏み込んで、島の現状を突きつける行為というのは…これまで何度となく拒否されたり攻撃されてきたことを考えると、かなり勇気の要ることなのである。

いろいろ書いてしまったが、今回そんなに心配するようなことは起こらなかった。可もなく不可もなく、といったところだ。
マンホールの底に落ちてゆくような集中力と共に読んだあの時間、果たして発した粒子はいつどのように作用するのであろうか。
(雲散霧消の確率の方が高い)


読書という1つの体験を、
敢えて二段階に分けてみたことで、
私の中の封印してきた引き出しが解錠されたように思う。
私の読書というのは今まで完全に「自分の内面と対峙することのみ」であった。
(実は読書感想文を綴る行為も苦手な方である)

小さな動機が引き起こした事は、アドレナリンを呼び起こし、痛みや恥にも晒された。
…でも、同時にわかったことがある。
マンホールに沈む中であっても、自分で読んで、咀嚼した文章の“発声”は、紛れもなく「生きてる世界の真ん中に私は居るのだ」と思わせてくれる、と。
その感覚は、決して「国の端っこ」でも「遠い不便な土地」でもなかった。
膝や手は震え、冷や汗をかき、半ば泣きそうになりながら恥をかく…それでも私は私の「アリエルの王国」にしっかり存在していた。
主体性を感じながら、内から外へと気が流れていく感覚は初めてだった。
(どれだけ無意識に島のことを卑下していたのだろう…)

ちっぽけな私の読書体験ではあるが、いつかきっと振り返る時がくるような気がして。
綴っておこうと思った。


もうひとつ、この本の「あとがき」にあった一文が、私にとって大切に響いている。

〜「そういう日々を そういう日々のまま書くことができたのは、原稿の隠れた伴走者が娘だったからです。」〜

初めて読み終えた時、この行で私は堰を切ったように泣いた。「嗚呼やはり…」と。読んでいる間ずっとそう感じていたから。
うまく説明できない、心の奥底から湧きあがる共感したこの気持ちを、どうしてもアウトプットしたくて、音読したのかもしれない。
あとがきも音読することにして、その時その行は何とか踏ん張って泣かずに済んだ。

内側に触れる際は涙が。
外側に捧げる際には勇気が。

知らなかった自分の一面を、この夏得た気がする。


🌿imo


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