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箱に入るぐらいの物語

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小さなお話、大きく語る。
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荒野雨宿り

「AIってさ」
「えーあい」
「うん、水をすごく使うんだって」
「へー」

彼女は知らないことにもちゃんと相槌を打つ。

「たくさん考えるとさ、ほら知恵熱でるじゃん」
「うん」
「冷やすじゃん」
「うん」
「AIもさ、たくさん考えるでしょ」
「なるほど、それで」

「そう。それで、さ」

雨がふる荒野で、二人は雨宿りをしながら。

「あ、じゃあさ。もしかして」

「豪雨が続いてるのは、地球も考え過

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さよならを言うこと

さよならを言うこと

「それでは、タロウくんの最後のことばです」

大勢に見守られて、少し恥ずかしそうな¨彼¨は、顔をあげ・・・。

※※※
「太郎くんは、心理的苦痛緩和プログラムになりました」
担任の先生がそういったのは、ちょうど一ヶ月前のこと。
太郎くんが交通事故にあった次の日だった。

そのことばをタロウくんが、先生の横で聞いている。

すでに高学年になった僕たちは、「心理的苦痛緩和プログラム」というものが、どう

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より理性的な男

より理性的な男

あるところにもっとも理性的だ、という男がいた。

その男は「欲」というものを一切我慢することができるという。

周りの人々は面白がって男に無理難題を出してみた。

「甘いものを我慢してみて!」

男は簡単に止めた。

「しゃべるのを我慢できる?」

男は身ぶり手振りだけで生活するようになった。

かわいい女の子にも振り向かないし、行列にも静かに並んだ。人の悪口にも、まったく怒らなかった。

「さす

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