【書評】カート・ヴォネガット・ジュニア: タイタンの妖女
□紹介する本
タイタンの妖女 (ハヤカワ文庫 SF ウ 4-22)
カート・ヴォネガット・ジュニア (著), 和田 誠 (イラスト), 浅倉久志 (翻訳), 2009/2/25
早川書房
□書評・感想
480ページしっかりとあって
読み終わるのに、1週間以上かかった
初めの150ページくらいは
クロノ・シンクラスティック・インファンディブラム
Chrono synclastic infundibulum
実体化
とかわけわからん話が出てきて、
なんのことだか分からず、つまらないように見えた。
しかし、後半になるにつれ、ストーリーが見えてきた。
この点はミステリーがのちに解決されていくような快感があるところ。
火星に飛ばされた主人公(マラカイ・コンスタント)は記憶を消されて、別名アラン?として働いていた、裏の指揮官ボアズの命令のもと、アランは元親友を殺害してしまう。…
こんな感じでストーリーは進んでいく。
52日毎だっけ?実体化するスティーブン?とその飼い犬が予言をする。
その妻出会ったビアトリスはマラカイコンスタントにレイプされ、子供を産む。
クロノと呼ばれたその子供は火星人の子供として過ごす。
アランは自分が火星から逃れるために努力してきたことを知り、その後、マラカイ・コンスタントであると知っていく。
水星ではボアズとアランという対称的なコンビがどのように過ごしたかの記録が見える。
ハーモニウムという、振動を食べて、ただ共鳴し合うことを喜びとする不思議な生物が現れる。
実は彼らは高度な知性を持ち、高度なコミュニティを持っていることを知る。
タイタンへはマラカイ・コンスタントとビアトリス、クロノが送られるのだが、
タイタンでの生活も描かれる。
最後は、その家族となった一人一人の歩みが描かれる。
ストーリーはマラカイ・コンスタントを中心に描かれる。
本人とその周りのキャラクターの生き方を描きつつ、SFとしての壮大なストーリーがあり、時間と空間を壮大に描く。
結果として、ストーリーは飛び飛びに見えてしまったり、何が言いたいかわからないようにもみえるが
読んでいて感じたのは、解説などでも触れているように、
過去や現在、未来という時間、地球や他の星に自由に行き来する空間の壮大さ、そして、波のように確定した実体、伝えたいもの、本筋を陽に表さない表現力である。
人生観のようなものに関しても、キャラクターによって全く異なることが交差し合い、
それぞれが各自の不幸・幸せを見つけてバラバラになっていく。
自分はビアトリスの「私を使ってくれてありがとう」というのはなかなか面白い考えだと印象に残った言葉だった。
かなり読み応えがあり、場面展開も激しく、正直結構疲れる小説だったが、読み終えた後のこれまでのあらゆる世界観が折り重なった複雑怪奇な気分は独特で、芸術的である。
SFとしては、映画インターステラーのような感じでいろんな星へ行きつつ、不思議な生命体に出会い、時間や空間を壮大に超えるという、王道作品であろう。
#読了日
23/03/07