共変(covariant),反変(contravariant),テンソル(tensor)
このノートについて
何度でも復習しておきたい.
共変,反変,テンソルは初学者を悩ませる.
何が共変で,反変で,テンソルとはなんなのか.
ちょっと理解してみよう.
デカルト
その昔,デカルトは,天井に止まったハエを見て,ハエの位置の伝え方を考えたそうだ.
どうやって伝えようか?
伝える相手は,以前,この部屋にきたことがあって,天井の様子を知っていることとしよう.この相手にどうハエが出現した位置を伝えようか?
1つのアイデアとして,
天井の左下端から右下端に向かう横方向を$${x^1}$$軸,
天井の左下端から左上端に向かう縦方向を$${x^2}$$軸,
ととってみよう.
横方向に$${10}$$cm, 縦方向に$${20}$$cm の位置にハエが止まっていたなら,
ハエの位置,座標は,左端を原点として,
$$(x^1, x^2)=(10, 20)$$ と伝えられる.
いや,他のアイデアとして,天井の真ん中に吊るされたシーリングファンを基準に考えることだってできる.
天井のシーリングファンからハエまで向かう向きを$${\xi^1}$$軸,
ファンの羽の1つにテープで目印をつけて,そこからの反時計回り方向に角度をとって,$${\xi^2}$$軸としてみる.
ハエの位置はシーリングファンから,10cm離れていて,テープをつけた羽から反時計回りに30度ずれたところ,即ち,$${(\xi^1, \xi^2)=}$$(10cm, 30度)のように伝えられる.(もちろん,テープを何番目の羽につけたか共有しておいて.あと,ファンの電源は切っておこう.)
2人の観測者
観測者$${R}$$と観測者$${G}$$(Roman文字座標とGreek文字座標)の2人の観測者を考えよう.
彼らのとる座標系(frame)は,
それぞれ
$${R: \bold{x} = x^{k} = (x^1, x^2, \cdots) }$$(R-frame)
$${G: \bold{\xi} = \xi^{i} = (\xi^1, \xi^2, \cdots) }$$(G-frame),
とする.
さっきまでのデカルトの話で見たように,
僕たち観測者は好きなように座標を決められる.
座標を決める際には,軸を決めていた.
例えば,
R-frame では,天井の縦横方向,
G-frame では,天井につけられたシーリングファンからの外向きの向きと,一つのテープをつけてある羽からの反時計回りの向きの角度
といった感じだ.
基準,基底
R-frame, G-frame での位置を伝えるのに,
$${R: \bold{x} = x^{k} = (x^1, x^2, \cdots) }$$(R-frame)
$${G: \bold{\xi} = \xi^{i} = (\xi^1, \xi^2, \cdots) }$$(G-frame),
のように表示してきた.
ここで,座標を考えるときに,基準となる向きと方向を決めたことに注意してみよう.
この基準(基底)を次のように表そう.
R-frameでの基底:
$${\bold{e}_1 = (1, 0, 0, \cdots, 0, 0)}$$
$${\bold{e}_2 = (0, 1, 0, \cdots, 0, 0)}$$
etc…
G-frameでの基底:
$${\bold{\epsilon}_1 = (1, 0, 0, \cdots, 0, 0)}$$
$${\bold{\epsilon}_2 = (0, 1, 0, \cdots, 0, 0)}$$
etc…
ベクトル(Vector)
ベクトルは,方向と向きをもつ量と定義される.
例えば,ハエが1秒のうちに動いた位置のずれ,変位(Displacement)$${\Delta \bold{r}}$$はベクトルだ.
同じずれ方をしているはずだが,
R-frame と G-frame ではその表現は変わる.
R-frame : $${(\Delta x^1, \Delta x^2)=}$$(30cm, 50cm)
G-frame : $${(\Delta \xi^1, \Delta \xi^2)=}$$(5cm, 10度)
これは同じものであるはずだから,
$${\Delta \bold{r} = \Delta x^1 \bold{e}_1 + \Delta x^2 \bold{e}_2}$$
$${= \Delta \xi^1 \bold{\epsilon}_1 + \Delta \xi^2 \bold{\epsilon}_2}$$
となるはずだ.
写像(mapping)
R-frame から G-frame への変換を表す操作,
写像(Mapping)$${M}$$を以下のように定義しよう.
$${M: R \to G, \xi^i = \xi^i(x^k)}$$
Exercise
[1] 写像の具体例
R-frame $${(x^1, x^2) = (x,y)}$$
(直交座標系, Orthogonal coordinate system)
から,
G-frame $${(\xi^1, \xi^2) = (r, \theta)}$$
(極座標,Polar coordinate system)
への写像$${M}$$はどのように表されるか?
[2] 逆写像, inverse mapping
G-frame から R-frame へのマッピングを,$${M^{-1}}$$と表現する.
G-frame $${(\xi^1, \xi^2) = (r, \theta)}$$から,
R-frame $${(x^1, x^2) = (x,y)}$$への逆写像$${M^{-1}}$$はどのように計算されるか?
Answer
[1]
$${r = \sqrt{x^2 + y^2}}$$
$${\theta = \tan^{-1}(\frac{y}{x})}$$
[2]
$${x = r \cos{\theta}}$$
$${y = r \sin{\theta}}$$
一旦休憩しましょう.Coffee break
基底間の変換
基底はR-frame から G-frame に変わる時,どのように変換されるか?
これを知るために変位ベクトル$${\Delta \bold{r}}$$を考えよう.
変位ベクトル$${\Delta \bold{r}}$$は各frameでどうなるか?
以下のように表せるはずだ.
以後,Einstein's convention (Einstein の縮約表記)を用いて記述する.
R-frame:
$${\Delta \bold{r} = \Delta x^1 \bold{e}_1 + \Delta x^2 \bold{e}_2 = \Delta x^k \bold{e}_k}$$
G-frame:
$${\Delta \bold{r} = \Delta \xi^1 \bold{\epsilon}_1 + \Delta \xi^2 \bold{\epsilon}_2 = \Delta \xi^i \bold{\epsilon}_i}$$
ここで,写像$${M}$$を定義していた.
$${M: R \to G, \xi^i = \xi^i(x^k)}$$
変位が微小な時,
$${\Delta \xi^i = \frac{\partial \xi^{i}}{\partial x^{k}} \Delta x^{k}}$$
であるから,
G-frameでの変位:
$${\Delta \bold{r} = \Delta \xi^i \bold{\epsilon}_i = \frac{\partial \xi^{i}}{\partial x^{k}} \Delta x^{k} \bold{\epsilon}_i = \frac{\partial \xi^{i}}{\partial x^{k}} \bold{\epsilon}_i \Delta x^{k} }$$
これがR-frameでの変位と等しいので,
$${\Delta \bold{r} = \frac{\partial \xi^{i}}{\partial x^{k}} \bold{\epsilon}_i \Delta x^{k} = \bold{e}_k \Delta x^k }$$
よって,基底の変換は
(G-frameの基底$${\bold{\epsilon}_i}$$から,R-frameの基底$${\bold{e}_k}$$への変換は)
$${\bold{e}_k = \frac{\partial \xi^{i}}{\partial x^{k}} \bold{\epsilon}_i}$$
と表せる.
$${\frac{\partial \xi^{i}}{\partial x^{k}}}$$は行列である.
Exercise
R-frameの基底$${\bold{e}_k}$$から,G-frameの基底$${\bold{\epsilon}_i}$$への変換はどのように表されるか?
Answer
$${\bold{\epsilon}_i = \frac{\partial x^{k}}{\partial \xi^{i}} \bold{e}_k}$$
一旦休憩しましょう.Coffee break
接空間での写像
前節で見たように,基底の変換は,以下のようになっていた:
$${G \to R: \bold{e}_k = \frac{\partial \xi^{i}}{\partial x^{k}} \bold{\epsilon}_i }$$
$${R \to G: \bold{\epsilon}_i = \frac{\partial x^{k}}{\partial \xi^{i}} \bold{e}_k }$$
このように基底の変換は
行列$${\frac{\partial \xi^{i}}{\partial x^{k}}}$$,$${\frac{\partial x^{k}}{\partial \xi^{i}}}$$といった,座標系の偏微分による行列で表される(Jacobi行列,ヤコビ行列とも呼ばれる).
ここで,
写像$${M: R \to G, \xi^i = \xi^i(x^k)}$$
逆写像$${M^{-1}: G \to R, x^k = x^k(\xi^i)}$$
という表現を拡張して,
写像 $${dM: dR \to dG, \frac{\partial \xi^{i}}{\partial x^{k}} dx^{k} }$$
逆写像 $${dM^{-1}: dG \to dR, d\xi^i = dx^k = \frac{\partial x^{k}}{\partial \xi^{i}} d\xi^{i} }$$
を定義する.
ここで,新たに定義された$${(dG, dR)}$$-frame はそれぞれ$${G,R}$$-frame内での変化量について表された空間で,接空間(tangent space)と呼ばれる.
これまで見た,基底の変換は,
この写像$${dM, dM^{-1}}$$を用いて,どのように表されるか?
$${\bold{\epsilon}_i \to \bold{e}_k }$$: G-frame の基底から,R-frameの基底への変換
$${ \bold{e}_k = \frac{\partial \xi^{i}}{\partial x^{k}} \bold{\epsilon}_i }$$
であるから,逆写像 $dM^{-1}$ によって写される.
$${dM^{-1}: \bold{\epsilon}_i \to \bold{e}_k, \bold{e}_k = \frac{\partial \xi^{i}}{\partial x^{k}}\bold{\epsilon}_i }$$
$${ \bold{e}_k \to \bold{\epsilon}_i }$$:R-frame の基底から,G-frameの基底への変換
$${ \bold{\epsilon}_i = \frac{\partial x^{k}}{\partial \xi^{i}} \bold{e}_k }$$
であるから,写像 $dM$ によって写される.
$${dM: \bold{e}_k \to \bold{\epsilon}_i, \bold{\epsilon}_i = \frac{\partial x^{k}}{\partial \xi^{i}} \bold{e}_k }$$
Exercise
写像$${M: R \to G}$$について,
R-frame (2次元直交座標)とG-frame (2次元極座標)とする.
この時,写像$${dM}$$および$${dM^{-1}}$$を求めよ.
Answer
写像のまとめ, recap
R-frame から G-frame への変換を写像$${M}$$を用いて,
$${M: R \to G, \xi^i = \xi^i(x^k)}$$
その逆像を
$${M^{-1}: G \to R, x^k = x^k(\xi^i)}$$
のように表したのだった.
この時,基底の変換は以下のようになる
(写像$M: G \to R$が$${R}$$-frame から$${G}$$-frame への基底の変換だと$dM^{-1}$で変換されていることに注意!!):
$${dM^{-1}: dG \to dR, \bold{\epsilon}_i \to \bold{e}_k, \bold{e}_k = \frac{\partial \xi^{i}}{\partial x^{k}}\bold{\epsilon}_i }$$
$${dM: dR \to dG, \bold{e}_k \to \bold{\epsilon}_i, \bold{\epsilon}_i = \frac{\partial x^{k}}{\partial \xi^{i}} \bold{e}_k }$$
Coffee break
共変(Covariant)と反変(Contravariant)
基底と同じ変換に従うもの(基底と共に変換される)を共変(Covariant)という.つまり,写像$${M: G \to R}$$に対して,写像$${dM^{-1}}$$で写される全ての量だ.
一方で,写像$${dM}$$で写される量(こちらは成分と同じ変換に従うとも言える)は反変(Contravariant)という.
共変性の原理
あらゆるframe は基底を設定して,はじめて位置などの情報を伝えることができる.物理的に意味ある量はすべて共変な量で表される.
このように共変な量と,反変な量の区別は重要なのである.
したがって,
共変な量を$${\bold{e}_i}$$のように下付きの添字をつけて書き,
反変な量$${x^k}$$のように上付き添字をつけて書いて区別している.
添字(index)のルールの確認
写像
$${M: R \to G}$$,$${dM: dR \to dG}$$
$${M^{-1}: G \to R}$$,$${dM^{-1}: dG \to dR}$$
に関して,
上付き添字の量は写像$${dM}$$で変換する.
(R-frame の基底から,G-frame の基底を得る写像)
下付き添字の量は写像$${dM^{-1}}$$で変換する.
(G-frame の基底から,R-frame の基底を得る写像.)
Coffee break
テンソル, Tensor
最後にテンソルを定義する.
これは,先ほどの座標を表現するのに用いた,基底$${\bold{e}_k}$$,座標$${x^k}$$などを一般化した概念(ひとまとめにしたもの)である.
だからこそ,ちょっと分かりにくい.
Definition: Tensor
R-frame $${(x^k)}$$, G-frame$${(\xi^i)}$$に関する写像$${M: R \to G}$$に関して,$${(p,q)}$$-type tensorを定義する.
各 R-frame (Tensor: $${\overset{R}{\mathbb{T}}}$$), G-frame (Tensor: $${\overset{G}{\mathbb{T}}}$$) に関して,
$${(p,q)}$$-type tensorは以下を満たすものと定義される:
$${\overset{G}{T}^{i_{1},i_{2}, \cdots, i_{p}}_{j_{1},j_{2}, \cdots, j_{q}} = \overset{R}T^{k_{1},k_{2}, \cdots, k_{p}}_{l_{1},l_{2}, \cdots, l_{q}} (dM)^{i_{1}}_{k_{1}} (dM)^{i_{2}}_{k_{2}} \cdots (dM)^{i_{p}}_{k_{p}} (dM^{-1})_{j_{1}}^{l_{1}} (dM^{-1})_{j_{2}}^{l_{2}} \cdots (dM^{-1})_{j_{q}}^{l_{q}} }$$
where,
$${(dM)^{i}_{k} \equiv \frac{\partial \xi^{i}}{\partial x^{k}}}$$
$${(dM^{-1})_{j}^{l} \equiv \frac{\partial x^{l}}{\partial \xi^{j}}}$$
(1,0)-type tensor:
$${\overset{G}{T}^{i} = \overset{R}{T}^{k} (dM)^{i}_{k}}$$
for example,
$${ d\xi^{i} = \frac{\partial \xi^{i}}{\partial x^{k}} dx^{k} }$$
(0,1)-type tensor:
$${\overset{G}{T}_{j} = \overset{R}{T}_{l} (dM^{-1})_{j}^{l}}$$
for example,
$${\bold{\epsilon}_{j} = \frac{\partial x^{k}}{\partial \xi^{j}} \bold{e}_{k}}$$
(1,0)-type, (0,1)-type tensor は vector と呼ばれる.
(0,0)-type tensor: スカラー,scalar である.
$${\overset{G}{T} = \overset{R}{T}}$$
Exercise:
(2,0), (1,1), (0,2)-type tensor の例は何か?
まとめ:共変,反変,テンソルとは何だったのか?
まず,2つの座標系(R-frame と G-frame)を考えたのだった.
そして,写像$${M: R \to G}$$ を考えた.
R-frame と G-frame の基底について,どのように変換されるのかを考えた.
R-frame の基底から,G-frameの基底を得たいとき,
写像$${dM^{-1}: dG \to dR}$$ を用いた.
G-frame の基底から,R-frameの基底を得たいとき,
写像$${dM: dR \to dG}$$ を用いた.
そして,上付き添字(反変)と下付き添字(共変)の定義を行なった.
写像$${M: R \to G}$$の座標変換に対して,
この変換と同様の変換に従うとき(共変)には,下付き添字とした.
つまり,R-frame の基底から,G-frameの基底を得る変換に従う場合に下付き添字を使う.
(下付き添字は,$${dM^{-1}}$$によって変換される.)
この変換と逆の場合には(反変),上付き添字とした.
つまり,G-frame の基底から,R-frameの基底を得る変換に従う場合に上付き添字を使う.
(上付き添字は,$${dM}$$によって変換される.)
最後にテンソルを定義した.
$${(p,q)}$$-type tensorは,
$${p}$$個の上付き添字(反変成分),$${q}$$ 個の下付き添字(共変成分)を持つ量である.
さらに,$${(p,q)}$$-type tensorは$${M: R \to G}$$ の変換について,R-frameで表されたtensorから,G-frameで表されたtensorに以下の規則で変換できるものとして定義される:
R-frame で表された$${(p,q)}$$-type tensorに対して,
$${p}$$個の反変成分の変換($${dM}$$を$${p}$$回演算)
$${q}$$個の共変成分の変換($${dM^{-1}}$$を$${q}$$回演算)
を行うことで,
G-frame で表された$${(p,q)}$$-type tensorを得る.
まだ,数学的にも厳密ではないし,大雑把な理解であるが,
このノートを記しておく.
直積表記,direct product or outer product, cross product あたりをきちんと学習したら,また,テンソルについては書くことになるだろう.