映画「山女」 私たちの山と心はどこにあるのだ
□稀代の眼力
山田杏奈、森山未來、永瀬正敏である
品川徹、でんでん、三浦透子である
そして山中崇、川瀬陽太、赤堀雅秋である
この俳優陣を前に
観ない理由を見つけられなかった
ちなみに御年88歳の品川徹氏は
大杉蓮と同じく沈黙劇の「転形劇場」の俳優で
ドラマ『白い巨塔』の大河内教授のその人である
メインビジュアルの山田杏奈の眼力と眉毛
山田の強い眼差しにはいつも心を掴まれる
特に『ひらいて』(首藤凛監督)においては
目力を超えてもはや悪人の目つきになっていた
実際山田が演じる女子高生には悪があり
まるで自家中毒のように自分がまき散らした悪に
焼き尽くされていく天晴な堕ちざまであった
ということでそんな山田が錚々たる実力派を従えて
タイトルロールを務めるのが本作『山女』だ
□目を凝らして見えるもの
飢えにおびえる東北の寒村
生きられなかった赤子を川に流すとき
山田演じる口数少ない凛が小さくつぶやく
「つぎは 人さ生まれてきては だめだよ」
『遠野物語』から着想を得たこの物語は
強靭な世界観で見る者を”村社会”に誘って来る
夜のシーンでの漆黒は深い
私たちは役者の表情が見たくて目を凝らす
それでもよく見えない
見えないのか
そもそも村人には表情などというものがないのか
目を凝らして見えてくるのは
社会の暗渠であり
生きることの不条理だ
アメリカ生活の長かった福永壮志監督は
土着的な漆黒の中に日本の本質を映し出そうとする
□その山はどこにある
人はひとりでは生きられないから社会をつくる
けれどいつか人は社会で生きられなくなる
社会(村、国家)のために自分を押し殺し
犠牲になることを強いられる
社会を守るために私は私でなくなっていく
家族をかばい村を追われて山に入った凛
皮肉にも社会を捨てたとき彼女は人間の顔になった
対して村人たちはどうか
ジャンヌダルクよろしく凛を火刑に処すとき
為政者は自らは手を下さなかった
「やれ」
ただ火のついた松明をふたりの無役の男に渡した
ふたりの男は自らの心とは裏腹に人を殺める
社会のためにとふたりは心を押し殺し
本当は自分をこそ殺している
これは300年以上前の
まだ人間が野蛮だったころの物語だろうか
いや法務大臣が署名して
職員が死刑を執行するのと何が違うのだ
凛には山があった
そして人間社会なんて
うんざりだという強い心があった
私たちの山とそんな強い心はどこにあるのだ
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