映画「ハッピーニューイヤー」 私たちには逆のことが起きて翻弄されているから
思い切り苦手なジャンルである。
クリスマスシーズンの高級ホテルを舞台とした14人の恋愛群像劇。
恋人たちが抱き合っているところにきったなくてくっさいゾンビがあらわれて全員食い殺す。
なるべく痛く!なるべく残酷に!なるべく美男美女から!なるべく美男美女から!
こういう展開を強く願うのが本来の私なのであるが、あれ?!
少しばかり健気な14人の登場人物に対して「来年こそどうかいい年であるように」と優しい気持ちでスクリーンを見つめていた。
彼ら14人は、恋人を事故で失ったわけではないし、耳が聞こえないわけではないし、ネグレクトされてきたわけではないし、難民として虐げられたわけではない。
特別な不幸がなくても、一年を生ききるというのはそれなりの戦いだ。例え凪のような人生であっても、その凪と慣れ合っていくという葛藤がある。つまらない人生でもそのつまらなさをしっかり抱きしめなければならない。華々しく起業したり、圧政に立ち向かうだけが人生ではない。
「今年はどんな1年でしたか?夢見たようには生きられなかったかもしれないけれど、来年こそいい年でありますように。」
そんな”人間賛歌”に酔った。心地いい羊水に心がひたひたとひたされたような120分だった。
製作陣が非常にクレバーだったことについても触れたい。奇をてらわない群像劇だからこそ、ご都合主義なストーリーや甘い演出が過ぎると成熟した観客は夢から覚めてしまう。14人の人物たちを一定の高さから俯瞰で描き、性急にならず一手ずつカップルの関係を縮めていくという手管が光った。
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想いを告げられなかったホテルマネージャーのソジンが、意中の人であるスンヒョとふたりになった場面、ホテルの廊下には「マリリン・モンロー」と「ジョン・F・ケネディ」の大きなアートが飾られていて、まるでソジンとスンヒョを見つめているようだった。これは後年ふたりが不倫かなにかで結ばれることを暗示しているのだろうか。考えすぎだろうか。
ラストの場面、ニューイヤーカウントダウンを背景にようやく結ばれたカップルたち。その中でソジンだけはひとりだった。ここで終わっていれば、ボクにとってこの映画はカンペキだった。何というかソジンがひとりで花火を見上げて終わっていれば、これほど客席に対して優しい映画はないと思った。人間は健気であり、ときに幸せがあり、ときに孤独もある。最後に観客とソジンの”ふたりきり”にしてほしかった。考えすぎだろうか。
本国韓国では2021年の公開らしい。来る2022年がいい年であるようにという祈りのこもった映画だったのである。2021年時点での観客は2022年を知らない。たかや2022年の観客である私たちは2022年を知っている。梨泰院での事故のことも知っている。いい年をと祈りながらも、私たちにはまったく逆のことが起きて悲しいまでに翻弄される。だから、だからこそこんな映画で「いい年を」と祈らずにはいられないのではないか。考え過ぎだろうか。
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