【お薦めの一冊】 株式投資を始める前の必読書 / 「臆病者のための株入門」 橘玲
今まで多くの本を読んできました。
その中には、私の人生に良い影響を与えてくれた本が沢山あります。
そんな本の感想を書き留めておくことで、私自身の備忘のためにも、また、これを読んで下さった方の本選びにも、少しでもお役に立てればと思っています。
1.著者の橘玲氏とは
本書「臆病者のための株入門」の著者の橘玲氏は、お金との付き合い方に関する本を多数執筆しています。
人生設計とお金に関する付き合い方を解説した「お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方」がベストセラーにもなっているので、ご存知の方も多いかと思います。
本書は、「臆病者のための」というタイトルがついており、どちらかというと株式投資についての初心者向けに書かれた本と言えます。
しかし、株式投資についてある程度知識のある方が読んでも十分興味深い内容も含まれており、そのような方が読んでも新たな学びがあるはずです。
さらには、「株式投資に関しては知識もあり、自分であれば絶対に儲けることができる」という自信がある方こそ、一度は読んで欲しい一冊です。
2.そもそも金融に関する基礎知識(リテラシー)に自信がありますか?
株式投資の話をする前に、そもそも皆さんに金融に関する知識はどれほどあるでしょうか。
早速ですが、以下の問題を考えてみて下さい。
あなたが100万円を持っているとし、以下のいずれかの銀行のキャンペーンを利用して資産運用をする場合、どの銀行を利用するでしょうか。また、その理由はなぜでしょうか。(本書第7章より)
【A銀行】
100万円を定期預金した上で、知り合いを一人紹介し、その知り合いが同じ銀行に100万円の定期預金を作ったら、二人ともに1万円がプレゼントされる。
【B銀行】
人気の投資信託を100万円分購入すると、100万円の定期預金に年利1%(1万円)のボーナス金利がつく。
【C銀行】
100万円分の外貨預金をすれば、100万円の定期預金が年利1%(1万円)のボーナス金利になる。
【D銀行】
年利1%の5年もの定期預金だが、銀行側の判断で満期が10年に延長される特約がついている
【E銀行】
名前も聞いたことがない銀行だが、定期預金がなぜが1%である。
これを見て、どのように考えて良いのか全く分からなかった方は、株式投資に興味がなくても、本書を読むことを強くお薦めします。
なぜなら、あなたは、定期預金の預け入れでさえ、金融機関のカモになる可能性があるからです。
また、上記の問題を見て、ある程度答えや理屈が分かった方は(答え合わせは、本書の第7章を参照下さい)、それなりに金融に関する知識がある方かと思います。
ただ、是非、ご自身で答え合わせをして頂きたいと思っています。
「こんな簡単な問題、自分の答えは絶対に合っている。答え合わせなんてする必要はない」と思っている人は、実はかなり危険です。
本書でも指摘していますが、投資において一番危険なことは、「自分が無知なことに無自覚で、なおかつ、自分の判断が正しいと信じている」ことなのです。
3.まずは自分が無知であることを自覚する
これから資産運用を考えている方は、まず何よりも知らなければならないことがあります。
また、既に何らかの資産運用を行なっている方でも、常に意識しなければならないことがあります。
それは、「自分は投資について無知である」ということを自覚することです。
例えば、「上記の問題が全く分からない。だから私は投資などしない」という方は、実はかなり良い考えです。
本書でも指摘されていますが、「投資をしない」という判断も、結果として、投資をした人たちよりも望ましい結果となることは十分にありえます。
例えば、1990年代において日本株に投資をしていた場合、どんなに一生懸命に銘柄を選定していても、ほぼ資産を減らす結果となっていました。
そのため、投資などしないで、単に銀行の預金に預けていた人が、結果として、投資をした人より資産を多く保つことができたのです。
4.一番危険な人は、「自分が無知なことに無自覚で、なおかつ、自分の判断が正しいと信じている人」
上記でも指摘した通り、実は一番投資において損をする可能性が高い人は、「自分が無知なことに無自覚で、なおかつ、自分の判断が正しいと思っている人たち」です。
例えば、上記の問題で、「長い期間、高い利息を受けられるから、絶対にD銀行だ。」と決めつけてしまうような人が最も危険なのです。
金融や投資の世界では、日々新たな商品・手法や、それに対する謳い文句が生まれています。
そのため、金融や投資の世界の全てを学び終えることはありません。
また、投資指南書やセミナーで学んだから自分は知識があると思っていても、そもそも、その指南書やセミナーが本当のことを伝えているかも分かりません。
例えば、不動産投資関係のセミナーは、皆さんに不動産投資をさせて、そこからお金を儲けたい不動産屋・銀行などが主催していることが往々にしてあります。
これから投資を始めるに際して、「一番のカモは、自分が無知なことに無自覚で、なおかつ、自分の判断が正しいと思っている人たちであること」を常に思い出す必要があります。
5.大手の銀行や証券会社が提供している金融商品であれば大丈夫と思っている方も危険
自分が投資の世界について無知であることを自覚していても、次のような考えを持つ人もいます。
「自分は投資や資産運用については無知であることは分かっている。だから、銀行や証券会社のプロが薦める株式銘柄や債券などを買うのだ」
しかし、このような考えも大間違いです。
銀行や証券会社も、収益拡大を目指す組織であることを忘れてはいけません。
つまり、彼らも商売である以上、自分たちが赤字をしてまで顧客の利益を優先してくれることなどなく、いかに自分たちの収益を上げるか、つまり、顧客から多くの手数料を取るかを優先するのです。
そのため、自分では何も考えず、大手の銀行や証券会社から薦められた金融商品だからといって買う人こそ、そのような金融機関に知らず知らずのうちに、多額の手数料を支払っていることになるのです。
6.必ず儲かる投資や資産運用はない
本書では、株式投資の代表的な手法として以下の3つを取り上げています。
(1)トレーディング(デイトレードなど)
(2)個別株の長期投資(バフェット流投資法)
(3)インデックス投資(経済学的に最も正しい投資法)
それぞれの具体的な内容は本書で解説されていますが、何よりも重要なことは、どのような投資手法を採用しても(本書で取り上げられていない手法も含みます)、「必ず儲かる方法はない」ということです。
これから投資を始めようと考えている方は、今後、いろいろな書籍を読み、ネットで情報を収集するかと思います。
また、人によってはセミナー等に参加される方もいるかもしれません。
そこでは、以下のような謳い文句を目にすることがあるかと思います。
・平凡な主婦でも10万円を半年で1億円にすることができたFXの手法!!
・ワンルームマンションの不動産投資で、普通のサラリーマンが不労所得を毎月100万円得る方法!!
・1年で10倍に株価が高騰する株はこれだ!!
また、実際に何千万・何億円と儲けたと自称する人が登場することもあるでしょう。
そんなときは、必ず本書を読み返して下さい。
「必ず儲かる方法はない」
私は、このことを思い起こさせてくれるだけでも、本書を読む価値は十分にあるかと思っています。
上記のような謳い文句を見ると、投資をこれから始める方は、「もしかしたら、私が知らないだけで、この方法でお金が確実に増やせるのではないか。」「まだ世間にはあまり知られていない儲かる話を知ることができた。」と思ってしまいます。
本当に大切なことなので、再度繰り返し言わせていただきます。
「この世界には、必ず儲かる方法はありません」
7.それでも資産運用をしたいという方に
上記の通り、残念ながら投資の世界には「必ず儲かる方法はない」のですが、一方で、「偶然にも儲かる可能性」はあります。
宝くじでも一等が当たるように、実際にFXで10万円が半年で1億円になる可能性もゼロではありません。
その点、筆者も指摘しているように、投資とは端的に言えばギャンブルなのです。
それでも、投資をしたいという方は、以下の3点を肝に銘じる必要があります。
(1)投資の世界を勉強する(金融リテラシーを身につける)
(2)投資の世界を勉強しても必ず儲かることはない
(3)投資におけるコスト意識を持つ
(1) 投資の世界を勉強する(金融リテラシーを身につける)
本書には、
・レバレッジ
・複利
・ファイナンス理論
・割引率
・効率的ポートフォリオ
・・・
など、投資の世界では知っていて当たり前の用語が多く出てきます。
本書ではこれらの用語についても、分かりやすい解説がなされていますが、これからどのような投資をするにせよ、このような用語や理論を今後理解する必要があります。
投資の世界とは、多くのプロ達が、日々勉強し、少しても多くの利益を上げようと競い合っている場所です。合法的に、いかに多くのお金を相手から得るかを日々競っているのです。
投資をするということは、そのような場所に足を踏み入れることになります。
本書で言及されているような用語についての知識もなければ、間違いなくカモにされます。
そのため、投資をする以上、その勉強をすることが必要になります。
(2) 投資の世界を勉強しても必ず儲かることはない
しかし、残念なことに、どんなに勉強しても、投資の世界においては必ず儲かる方法を見つけることはできません。
本書を含め多くの書籍でも指摘されていますが、プロのファンドマネージャーが運用するファインドでも、市場平均以上の成果を出すことはなかなかできません。
プロのファンドマネージャーは、それこそ、1年365日、投資を勉強し、それを仕事にしている人たちです。
そのような人たちでも、未だ「必ず儲かる方法」は見つけられていないのです。
したがい、どんなに勉強しても、あたなも「必ず儲かる方法」は見つけることはできません。
それでも、勉強することでカモにされる可能性は減りますし、儲かる確率が少しは上がるかもしれません。
投資とは、そのような厳しい世界なのです。
(3) 投資におけるコスト意識を持つ
私が、本書の優れている点の一つだと思う点は、投資におけるコストの重要性がしっかり説明してあることです。
私たちは、投資というと、往々にして「いかに高いリターンをあげるか」という点に注目してしまいます。
例えば、私たちが株式を購入する際には、
・どの株が今後高騰しそうか。
・日本株より米国株の方が良いのか
・個別株を買うより、投資信託の方が良いのか
といった点にばかり注目してしまいます。
その一方で、以下のことはそれほど気に留めないことが多いです。
・株式を購入する際の手数料はいくらなのか。
・日本株を買う場合と、米国株を買う場合で手数料は異なるのか。
・日本株を売却した際の税金はどうなっているのか。
・米国株を売買した場合の税金はどうなっているのか。
・投資信託の手数料はどのようになっているのか。
1%の儲けを出すことも、1%のコストを抑えることも、基本的には同じことです。
しかも、1%の儲けを出すことは、株価の変動等の不確実なものに頼ることになりますが、コスト(手数料)を抑えることは、自分で調べて勉強することで、確実に行うことができます。
つまり、不確実な1%の利益を目指す前に、まず確実に1%のコストを抑えることから始める必要があります。
8.本書が薦める「経済学的に正しい投資法」
上記で述べた通り、本書では以下の3つの株式投資の方法を紹介しています。
(1)トレーディング(デイトレードなど)
(2)個別株の長期投資(バフェット流投資法)
(3)インデックス投資(経済学的に最も正しい投資法)
いずれも、メリット・デメリットがあるのですが、株式投資の専門家でもなく、サラリーマンなど本業があり投資にそれほど時間が取れない方には、(3)のインデックス投資を薦めています。
なぜなら、(3)のインデックス投資こそが、ファイナンス理論を踏まえた「経済学的に正しい投資法」だからです。
ファイナンス理論自体は、正直、投資の初心者の方には理解が難しいかと思いますが、結論だけ言えば、世界市場全体に投資することが最も理論的に正しい株式投資になります。
世界市場全体に投資するとは、「世界の市場に存在する全ての株式を、市場に存在する割合だけ保有すること」です。
例えば、2020年11月末現在、世界の株式市場における時価総額の割合は、米国が41%、中国市場が11%、日本市場が7%、香港市場が6%・・・となっています。
そのため、世界市場全体に投資するとは、この市場割合通りに株式を取得することを意味します。
ここまで読んで、そんな難しいことはできないと思う方もいるかと思います。
ただ、今はこのような投資をすることも実は簡単になっています。
それが、インデックスファンドを買うということです。
詳細については本書で詳しく解説されていますので、ぜひ参照下さい。
9.本書を読んでも、直ぐにお金持ちにはならない。ただし、損をする危険は減る。
本書には、財務諸表の読み方、株価チャートの読み方、経済指標の読み方など、株式投資の指南書で述べられているようなことは書いてありません。
そのような、いわゆる実践的な投資方法を知りたい方にとっては、本書は期待外れかもしれません。
もちろん、そのような実践的な投資方法を勉強することは悪ことではありません。
ただ、そのようなことを勉強する前に、投資の初心者がまず知らなければならないことが本書には書いてあります。
投資の初心者は、「いかに儲けるか」ではなく、まずは「いかに損をしないか」を知る必要があるのです。
巷に溢れる投資入門書を読む前に、まず本書を読んだ上で、それでも投資をしたいという方は、その後に投資入門書を読んでも遅くはありません。
株式投資を始めようと思った方は、ぜひ最初に本書を読むことをお薦めします。
本日も最後まで読んで頂きありがとうございました。
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