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『春のこわいもの』川上未映子

『春のこわいもの』川上未映子(新潮社)

p.15
ねえ、戻れない場所がいっせいに咲くときが、世界にはあるね。

p.59
昔から雷が落ちたら、しいたけがなんか爆発的にふえるってのがあって。……電気を打つようになったの
→ニョロニョロ?

p.68
言ってはならないことを言い、色んなことを考えて、何も考えていなかった。

p.87
愛することって、赦すのとおなじなのかもしれないね。

p.91
お好きな席?お好きな席って、いったい何だ?
→どうぞご覧くださいませ〜。っていったい何?って思ったことを思い出した。

p.96
校舎やアスファルトや地面が昼間に吸いこんだ熱を吐き出して、そこらじゅうがぐらぐらしてみえる夏の夕方だった。

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痺れた。求めている毒はこれだった。
悪意や抑圧や強迫観念や妄想や混沌とした、なんか、あれこれ。言いたいのか言いたくないのか思っているのかいないのか、傷ついているのか傷つけているのか、もう何もわからない。そんな何色にもならない、毒。
これを求めていたんだ
と思った。
時々、毒を飲みたくなる。
毒を誰かに吐きたくなる。
吐くために、飲みたくなる。

『青かける青』を読んだ時点で
素晴らしい作品に出会ってしまった
って興奮する、久しぶりの感覚。うれしくてうれしくて、顔がにやけた。
「かまぼこ」って単語が出てきた瞬間、鼻から息が漏れたこぼれた。
この手紙を読んで思い出す感情があった。
自分自身にしかわからない感覚、感情を共有してもらえる嬉しさ。伝えてくれてありがとうという気持ち。そして、それを完全にはわかれないもどかしさ、わかりたいという自分勝手な感情。本当の手紙だった。すきな人からのお手紙。感性が鋭くって、自分よりももっともっと繊細で、時々壊れてしまいそうなあの人。儚さ、切なさ。
「この感情、あなたならわかってくれるよね。」って言われているような。「ううん、私の想いだからわかってもらおうなんて考えてないよ。」って言われているような。複雑な靄がかかった感情。

他人の気持ちも過去も記憶も自分のことも
感染症のことも何もかも
本当のことなんて誰にもわからなくて、何が事実で本音かなんてわからない。
全てに霧がかかって靄がかかってぼやけていて、ピントを合わせようと、霧を晴らそうと思えば思うほど見えなくなるようなこと。
苦しくて苦しくてもがけばもがくほど
さらに苦しくなる金縛りみたいな。
ただ、そんな苦しさだけじゃなくて
苦しささえも受け入れて生きていく、生きてしまう、自分は自分だと認めるような認めるしかないような、美しさ、前向きさもあった気がする、たぶん。
だから、ちょうどよくって。
求めていた毒だったんだと思う。

感染症の話で思い出すのはいつも
3月11日のあの震災の後の日々のこと。

情報が氾濫して何が正しいかわからなくなる状態。
不安や悲しみに押しつぶされて、無意識に無自覚に人が人を傷つける世界。
何が悪いのか悪者を探す人々。友だち、恋人、家族。
だいすきなあの人たちでさえ、こんなに真っ黒になってしまうんだね。人って簡単に壊れちゃうんだ。
だいすきな人のSNSをのぞいて、打ちのめされる様な、最悪の感情。
そんな時に何が救いになるんだろう。
もしかしたら、世界の嫌なことを全て吐露できることが救いになるのかもしれない。それは日記なのか誰かとの会話なのか。
今までそんなドロドロした感情を人と共有できたことは少ない。というか、ないかもしれない。覚えてない。
このモヤモヤを誰か言語化してくれ
って思い続けて生きてきた。というか、どうにか自分で言語化したかった。日記レベルじゃなくて、誰かに伝わるレベルで言語化したかった。あなたに伝えたかった、ぶちまけたかった。

そんなぐちゃぐちゃした全ての負の感情や本当のことを吐露してくれている、そんな作品だった。
俺の代わりに、この本の世界の人たちが吐き出してくれた。だからちょっと俺も吐き出してみようかなって気持ちになれた。
毒を飲んで、毒を吐きたいと思えた。

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