見出し画像

『むらさきのスカートの女』今村夏子

※ネタバレ注意

なんか、いつも気になる人がいて
その人を見かけると
追いかけて見続けてしまう感覚。

実際には、
バレるのがこわいし、
そこに時間割きたくないしで
見続けたことはないんだけど。

その好奇心のまま
ずっと見続けることができた。
追い続けた。

最初の
「むらさきのスカートの女」
の描写からは

全く、むらさき色のイメージができなくて。
むしろ、茶色とか深緑とか
そういう自然色な地味な色のイメージしか
できなかった。

読み進めていくうちに
だんだんと、淡い汚いむらさき。
パステルカラーのむらさき、むらさき色、深く色気のあるむらさき
にどんどん変化していった。

「黄色いカーディガンの女」は
最初は無色。
だんだん、白とか黒とか
黄土色、からし色から
最後、パステルカラーの黄色とか
色鉛筆の黄色に変わっていった。

好みの物語はいつも
「きっと、この先こうなるだろう。」
なんて、想像すらしなくなっている。

序盤の序盤は
「もしかして、観察していることに気付かれてとんでもないハプニングが?」
とか
「実は姉妹なのか?」
とかとか
いろんな予想を立ててたけど
数ページ読み進めたら
そんなこと考えなくなってる。

その世界に居るのが心地よいというか
ただついて行っているだけ
みたいな感覚になる。

逆に、
先の展開を想像ばかりして
ちゃんとその答えが待っている物語は
わりと苦手な気がする。

だから、
サスペンスとかミステリーとかが
あんまり好きじゃないんだと思う。

結末なんて割とどうでもいい。

むしろ、途中で読むのを辞めたとしても
おもしろい物語だった
って思える作品がすき。

結末のために作られた
役割のある文章とか登場人物に
違和感を感じて
居心地悪くなるのかな。

映画でも小説でも
「山のないストーリーが好きだよね。」
ってなんか昔からよく言われる気がする。

現実の世界に忠実な
擬似体験みたいなものを
物語に求めているのかも。

現実の生活なんて
山なんてほとんどなくて
たまに偶然ちょっとした
山があったり、
山だらけだったり
谷だらけだったり
みたいな感じ。

ずっと、平らだったり。

そこにちょっとしたSFとか
よくわからんもの
が入ってきて
かつ
それがもうめちゃくちゃ自然
だったりすると本当にわくわくする。

ずっと見ていたくなる。

普通に生きていたら
“ずっと見ていたくなるような刺激”
って
そんなしょっちゅう起きないから。

そのちょっとした刺激というか
毒みたいなものが
どれだけ自然に物語に馴染んでいるか

大事な気がする。

『感動はこわれやすいもの。』
みたいな感じの言葉が
どこかの映画館で本編前に
必ず流れてきて
その表現がずっとすきだったんだけど

その通りで、
急に物語のために
人が殺されたり
恋をして傷ついたり
とかされてしまうと
簡単にプツンって、壊れる。
割れる。

多分、すきな作家さんの物語は
そこの配合とか調整とか調合とか
がものすごく緻密で綺麗なんだと思う。

それも計算されている場合もあれば
されていない場合もあるのかもしれないけれど。

毒とか刺激になる何か

自然で現実的な何か
を混ぜる
スペシャリストなのかな。

黄金比率
とかはきっとないんだけど。

何か
によって変わってくるから。

『むらさきのスカートの女』

配合比率でいうと
“毒を一滴”
垂らしただけで
あとは全部現実世界
って感じ。

なのに、
じわーーーーって
拡がっていった。

無駄な文章とか描写が一切ないのに
緩急が勝手につけられていて
完全に物語の中の世界に入ってた。

じわーーって拡がって
そのまま終わるのかと思いきや

なんかストン
って終わって。

キュッとまとまったから
びっくりした。

なんでかわからないけど
割とスッキリした気持ちで終わった。

ちょろちょろっと
誰かが書いたレビューを
目に入った程度に見たら

不気味、気持ち悪い、不思議
とか
ドロっとした単語が並んでたけど
あんまりそんな風な読後感はなかったな。

むしろ
「黄色」
って感じだった。
爽やかな。

読む人によって
全然印象違うんだろうなあ。

文庫本で読んだけど
深めの黄色い色の大きい帯に

『何も起こらないのに面白いとTikTokで話題沸騰!』

って
ドドンって書かれてて
少しかわいそうと思った。

とある作家さんが、
帯に書かれる言葉には
いつも葛藤があって
すごく些細なワードでさえ
話し合うことが多い。
みたいなこと言ってたの思い出して

なるほど
って思った。

とにもかくにも
ずーーっと気になっていた
今村夏子さんの作品を
初めて読むことができた。

そういえば
かなり久しぶりに本読んだ気がするけど
素敵な本に出会えて
しばらく味わってなかった
感覚に浸れた、うれしい。

この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?