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『発酵における職人集団をめざす』蔵のミッションを達成すべく始動した、西酒造が造るニュージーランドワイン「URLAR(アーラー)」訪問記

2024年3月の訪問

西酒造(にししゅぞう)とは

焼酎の本場、鹿児島県日置市吹上町で、
1845年に創業役175年の歴史を持つ老舗の焼酎蔵です。

元々は芋焼酎「富乃宝山(とみのほうざん)」で知られる蔵元でしたが、
今回ご紹介するワイン「URLAR(アーラー)」含め、日本酒「天賦(てんぶ)」、ウイスキー「御岳(おんたけ)」も造る日本を代表する蔵元。

創業以来、農業こそ酒の旨さの源泉との考えから、
農業を知り尽くし、大地からいただく恵みを酒として表現してきており、
価値を高めること、その価値を磨き込むことをモットーとしています。

焼酎で一世風靡した蔵がなぜワイン造りを?

焼酎のみに縛られることなく、他の酒類からも学ぶべきであるとの考えから、20年以上、世界中の優れた醸造家とコミュニケーションを続けてきた西酒造。そんな中で、当時ニュージーランドで「Green Songsワイン」を造る小山浩平氏、当時の「URLAR」のオーナーであるアンガス氏と出会い、三者は意気投合。

その後、西酒造にはラボがあることから、「URLAR」のブドウ成分を調べ、
糖度(ブリックス値)などの分析値をフィードバックし、ブドウの栽培や熟成の改善策について話し合いを重ねていきました。
そんな中、突然アンガス氏から、西酒造に「ワイナリーを引き受けてくれないか?」と打診があったそうです。

URLAR越しの小山浩平さん

「場所も知ってるし、ブドウの収穫も手伝ったし、製造も設備も分かっている。だけど、情熱やノリで酒造りは出来ない…。年がら年中居る訳にもいかない。」
特に原料を生み出す「畑」を重視する西酒造の思いもあり、悩みに悩み、当時「Green Songs」を造る小山氏に相談。
「西社長がやるのであれば、僕もやりたい」と小山氏が言ってくれたことでワイン造りを決心したそうです。

ちょっと木のある砂漠「ハゲ山」の麓で造る絶品ワイン

「ハゲ山」とURLARのブドウ畑

URLARのあるニュージーランドのグラッドストーンは、世界でも有数の雨が少ない場所と言われており、年間600mm程度の雨しか降りません。
西からの雨雲は山に当たってグラッドストーンに来ないため、西山より西側は年間4000mm降るとのこと。
(ちなみに南にも山があるため、雨は南からも届かず。)
西の山も南の山も自然の森が広がってますが、
URLARワインを造るこの場所だけ、森がなくなるという変わった土地。

※収穫期のブルゴーニュで600mm、カリフォルニアで500mm、
グラッドストーンは300mmなので、その少なさは歴然です。

あまりにも雨が少なすぎるため、
最悪、地下水を汲み上げ畑に水をポタポタ落とす設備はあるとのことですが、ブドウの根が地中深くまで伸びていることで、現段階では出番なし。

また昼夜の寒暖差が20度以上で、夏でも「あっつ寒い」日が続きます。
日差しは強いので暑いのですが、風は寒い。

実際、訪問はちょうど収穫期で、昼間は暑いのですが、朝晩は10度前後と思った以上に寒かった印象。
夏はなんと、朝4時~夜20時くらいまで太陽が出ているとのことで、
暑くなる昼過ぎには仕事終わってビールを飲む、そんな生活だそう。素敵!

そのおかげでか、造られるワインは、日差しをしっかりと浴びた黒光りするくらいの熟度。
雨が降らないため、湿度が低いことで健全な成熟、昼夜の寒暖差による守られた酸味…。
正に最もエレガントなピノノワールが造られるということを体現しています。

収穫する人の判断はいらない、これぞ栽培家の醍醐味!

標高300m,30haのURLARのブドウ畑
とにかく広くて素晴らしくきれい!
コウヘイさん、我が子のようにかわいがっていました。

日本でワイナリーの収穫に携わった人がいれば分かると思いますが、
状態が少しでも悪いブドウは入れないよう、丁寧に収穫してほしい、というワイナリーが多いはず。
URLARではオーガニック栽培で造っているにも関わらず、
状態の悪いブドウはほぼないため、ブドウは全部カゴに入れて良いといいます。

ぷりっぷりのピノノワール

「少しでも状態の悪いブドウは選果台で弾かれます。そもそも栽培を最大限丁寧にすることで、この土地この気候であれば、
悪いブドウは育ちません。」とのこと。
実際収穫に立ち会いましたが、全てぷりぷりとしたきれいなブドウばかり。

また、バイオダイナミック農法という、自然界の持つリズムに合わせた栽培や、牛の角に詰めた牛ふんの調合剤を、作物が持つ生命力を引き出すために用いています。

ブルーム?と熟した状態とは?

収穫に適した状態というものを初めて教えてもらいました。
枝や種が熟す、フレーバーが乗ってきたら収穫の合図とのことで、熟すとは茶色くなること。
そのため、実際に食べてみないと種の状態はわからないと
またフレーバーが乗ってくるというのは、
「ブドウの品種特性が感じられるようになること」だそうです。
ソーヴィニヨンブランらしい、ピノらしくなったら、とのこと。

URLARのピノは特に糖度が高く、黒光りしていることがあります。
この状態を「ブルーム(ワックス)が出ている状態」とのことで、
この状態の葡萄が収穫ベストのタイミングだそうです。

ブルーム!!
とにかくブドウたちが光っていました。かっこいい・・・

ちなみにDRCのピノノワールと同じクローンの葡萄(エイベルクローン)が植樹されています。
当時はブルゴーニュ以外では育たないと言われていたのですが、この土地でもベストなパフォーマンスをあげているので、世界がこの土地のワインに可能性を感じています。

マシンガントークでエネルギー溢れる栽培醸造家「コウヘイさん」
URLARワインを日本に広めるの伝道師「Mr.フナキ」

西酒造代表の西社長が、
「全ての栽培・醸造を一任している、小山浩平さん」
どんなことでも質問に丁寧に答えて頂き、エネルギーたっぷり!
スタッフへの思いやりも人一倍強く、造りで一番大切な「清掃作業」を誰よりも丁寧に行ってました。
日本人スタッフが居ない中でも、全てをまとめ上げ、メンバーからの信頼も厚いコウヘイさん。
その行動と言動が全てを物語っていると感じました。

西社長が日本での販売を一任する、
「URLARの素晴らしさを語り続ける、Mr.フナキ」。
いつでも丁寧で物腰柔らかく、ワインとレコードを愛する素敵な紳士。
また今回のワイナリー研修でも終始、皆を和ましてくれました。

選果台でお手伝いをするMr.フナキ

日本とニュージーで飲むソーヴィニヨンブランは味が違う??

印象的だったのが、世界のマーケットによって、違うソーヴィニヨンブランを造っていること。
なお、ソーヴィニヨンブランを現地ではSAB(サブ)と言います(以下、サブ)

うまみの好きな日本には、シュールリーしたワインを出荷。
旨味と、柔らかく伸びやかな酸が出るタイプで、特に出汁との相性が抜群!
一方で、すっきりしたものを好む、地元ニュージーやアメリカでは、フレッシュで瑞々しいタイプを出荷しています。

サブの泡も、現地で飲むほうが若干ドライで、酸のキリッとした印象。
「地元で受け入れなければ、ニュージーでは受けない、ニュージーで受けなければ世界に通用するはずはない」と、
今や地元で飲めるお店が増え、なんとURLAR専用カクテルまでありました!

「URLAR 75」
ジャスミンジンベースのSpecial cocktail

まだまだ可能性の宝庫!日本未発売ワインもIMADEYAに入るかも…?

実はまだ、実験的に地元だけで消費しているワインや、アメリカにしか卸していないワインもあるとコウヘイさんは言います。

URLAR Pinot gris 

ピノグリの白ワイン、ブランドノワールのブリュット、シャルドネ…
そしてコウヘイさんが以前造っていた「Green Songs」という銘柄も、
チルドレッドやアンバーなど実験的な試みで造り続けているようで、
この辺りも日本で飲める日が来るかもしれません…!

2018年からコウヘイさんがジョインしたばかりですが、海外では当時の2~3倍販売されており、
今やハリウッドセレブ向け(客単価4万円以上)に提供されていたりもするそう。

もしかしたら世界を席巻するまであと数年、
10年後には手に入らなくなるワインかもしれません。

URLARワイン、まだ飲んだことのない方はぜひお手に取ってみてください。


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