〈詩〉きのうの夜
きのうの夜
あれだけ苦しんでいたのに
こうして朝を迎えているのが、不思議でならない
幻じゃない筈なのに
いや、むしろ現実だと苦し過ぎるから
夢だったくらいで丁度いい
空の頭と、目から流れる水
早いとこ幕を閉じたいって、そればっか
きのうの夜
あれだけ眠れなかったのに
どうして昼には微睡めるのか、不思議でならない
もがき苦しんだ夜を知らないみたいに
平然を装って日常を生きる
私がそうであるように どこかの誰かも
おんなじように
死にそうな夜を どうにかやり過ごしているんだろうな
死にかけるのが好きだ
死ぬのは怖いが、死にかけるのは好き
生命の危機に瀕した瞬間、
本能で「あ、これ、死ぬかも」と死を感じる瞬間、
「死にたくない」
と身体のどこかから信号が発せられて、
生にしがみつく
その泥臭い苦しさを愛しています。
何かと「早いとこ幕を閉じたい」とぼやくくせに
こうして反射的に「生」にしがみつく
自分が滑稽でならない
だが、その滑稽さが愛おしい。
何だか息苦しいような気がする
と思っていると、
気付けば呼吸が出来なくなって
酸素が吸えなくなっている
必死になって、口から肺へと吸い込んだ
その酸素の
頼りなく か細い冷たさを、
永続的に抱えていたいのです。
剥き出しの体を そのまま地面に横たえて
勝手に上下する胸を 脳味噌のどこかで知覚する
視界に、白く靄がかっている
頭が、締め付けられるように痛む
心臓が、ドクドク脈打っている
体中の組織が、私の意志を問わずに、
ただ私を生かそうとしている
こうやって「生」を理解する
この体感を、私は愛しています
この体感を、私は、愛しています。
生きるのが嫌い
死ぬのは怖い
恐怖に反して、生の実感を愛する私は
生を不器用な方法で愛しているに過ぎない
のだろうか