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最近読んで良かった本3選【読書記録】#14
自分の中でビジネス書ブームが到来して1年以上。
最近は、学術的な読み物や"名作"といわれる作品に興味が傾いてきました。
それらの読み物は、自分自身の力では到底辿り着き得ない境地の思考へと僕を導いてくれるのです。
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●物語のあるところ 月舟町ダイアローグ
吉田篤弘さんの最新作は月舟町シリーズの番外編。小説の舞台である月舟町に著者自身が赴き、登場人物らと対話を重ねるという異色のコンセプト。
この設定自体にワクワクさせられますが、それ以上に著者である吉田篤弘さんの思考をこの本から直接的に感じられることに最大の魅力があります。
「どれも、『ない』んですね」
「そうか。たしかにそうだね。『出来ない』とか、『分からない』とか、『思い出せない』とか。ぼくもいま気づいたけど、『ない』ってことが、物語を生むんだね」
著者自身が物語を創り上げた過程を振り返り、登場人物を通して自己対話をする。
小説とドキュメンタリーの狭間のような不思議な読書体験ができるはずです。
●急に具合が悪くなる
この本は哲学者の宮野真生子さんと文化人類学者の磯野真穂さんとのやり取りが20通の往復書簡の形で記されています。
宮野さんが癌闘病中であるため、内容は必然的に『病』や『運命』などを巡る概念的なやり取りが多いです。二人の知識と言語化はとても奥深く、前半5往復ほどは比較的小気味良い雰囲気をあじわうことができます。
しかし第7便あたりから本当に宮野さんが"急に具合が悪く"なってしまい、二人のやり取りがより切迫していきます。
ですが「患者」とか、「元気な人」とかいったように、それぞれの人間が持つ特性にラベルがつけられ、ラベル同士のあるべき連結の仕方が、関係性を具体的に作る人々の外側にいる、ラベルについて深い知識を持っているとされる人たちによって、頻繁に提示されることに私は少々違和感を覚えています。加えて、「あるべき形」から外れた連結が、「元気な人」(マジョリティといってもいいでしょう)から試みられた時、深い知識を持っている人々が、多様性を損ねるとか、配慮がないとか、差別とかいった言葉を掲げ、それを試みた側を糾弾する姿を見ると、その違和感はより増します。
病を抱えた人に対する振る舞い、病によって設定された最短距離の関係性、蛇行する人生。
どこかの知識人が叫ぶ多様性という名の下、ラベリングされて個人と個人が手を取り合う社会はいかがなものか。
何が正解なのか。
気づけば二人の対話に引き込まれてしまいました。
●キッチン
超弩級の名作、吉本ばななさんの『キッチン』。どうやらこの作品は世界各国で翻訳されており、世界的な名著だそう。
そんなことは露知らず、長い間積読リストにあったからという理由で読んでみて衝撃を受けました。
繊細な描写と時々放たれる強烈な言葉。
別れや喪失というテーマでこんなにも充実した読書体験は、僕の中で久しくありませんでした。
絶望感を味わったり、延々と続く闇を抱えたりしている若者たちに微かな希望を与える終わり方もまた印象的です。
本当のいい思い出はいつも生きて光る。時間がたつごとに切なく息づく。
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良い本たちに巡り合えた素敵な初夏でした🌿