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#157【介護雑記】「あなたは大切な娘」が「あなたは誰なの?!」になり・・・。

多くの家族介護者さんが、自覚症状のないまま、「介護ウツ」に陥っている場合がある。まずはそのことを、多くの人に知って欲しい。

介護保険の申請をすると、家族の中から「介護キーパーソン」1名が選出される。兄弟姉妹の中で「介護キーパーソン」が決まると、他の兄弟姉妹は途端に、「じゃ、お願いね🩷」と体裁良く、介護から手を引いてしまう場合が多い。(そして、相続の時には、しゃしゃり出てくる💧コレ最凶。)

「介護キーパーソン」を任された家族介護者は、責任感の強い人程、懸命に介護にのめり込んで、自覚症状のないまま「介護ウツ」に陥ってしまうケースが多い。

また、「親ひとり子ひとり」世帯であれば、有無を言わさず、ひとりっ子が「介護キーパーソン」にならざるを得ず、介護全般をひとりで対応する事となり、こちらも「介護ウツ」に陥りやすい。

ここで改めて、言わせて頂くが・・・、

誰も、好き好んで親の介護をしているわけではない!!💢

例え、親に恩義を感じている人であっても、否、恩義を感じているからこそ、「完璧にやってあげなくては!!」「後悔しないようにやってあげなくては!」と、一生懸命になりすぎて、「介護ウツ」に陥りやすい。

そして、「介護ウツ」は、自覚症状を伴いづらい。なんでか?

必死で頑張っているからですよ。


だからこそ、周囲の者も、「頑張っているよねー。」「偉いよねー。」「任せて安心だねー。」「お父さん(又は、お母さん)は、幸せですねー。」と言って、「介護ウツ」に、気づかない。

気づかないどころか、「任せておけば、大丈夫」と、益々、手を引き、介護者を孤立させていく。そして介護者は、ある日、突然、バーンアウト燃え尽き症候群を引き起こしてしまう・・・。


日本は「G7」や「G10」「G20」というくくりの中でも、自殺者数が年間約3万人と、最も多い事で知られている。これは、交通事故による年間の死者数とほぼ同じだ。

政府は、この事案を重く受け止め、何年も掛けて、様々な「自殺防止」の対策を打ってきた。その甲斐あってか、直近の年間自殺者数は、約2万人と、1万人近く減らすことに成果を上げてきている。

だがしかし、「介護ウツ」や「介護疲れ」による自殺者数の割合は、近年、急激に増え続けているのだ。

厚生労働省の統計によると、介護・看病疲れを理由にした自殺者の数は2022年に、過去最多の377人となった。統計を取り始めた07年から21年までの平均は256人に上る。

東京新聞記事より抜粋

現役家族介護者として、胸が張り裂けそうになった(いや、張り裂けた。)悲惨な事例を、2023年10月6日付けで東京新聞デジタル版が報じている。
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認知症の母親を介護していた千葉県内の50代女性のTさんが8月末、「もう限界です」との紙のメモを残し、自宅で亡くなっているのが見つかった。自殺とみられる。

Tさんをサポートしてきた介護者支援のNPO法人「ケアラーネットみちくさ」(柏市)の布川佐登美さんは「私たちのような団体が察知した危機感を、関係者全員に緊急的に共有する仕組みが足りない」と訴える。(加藤豊大)

東京新聞記事より引用

◆「あなたは大切な娘」が「あなたは誰なの」になり

Tさんは「私が一番大事なのはあなた」と母親が書き記したメモを、お守りのように持っていた。介護について「自分が頑張らないと」と周囲に語っていた。
布川さんらによると、母親は3年ほど前から認知症を患っていた。2人は長年同居しており、近くにほかの家族はいなかった。訪問看護を受けながら、Tさんが仕事の傍ら自宅で介護。母親は妄想や人格変貌の症状があったが、安定している時は「あなたは大切な娘」と感謝を伝えていた。

”みちくさ”(介護支援NPO法人)が開く介護者の交流会にも参加し、悩みも明るく打ち明ける人だったという。ただ、母親の症状が悪化するにつれ、Tさんは悩みと疲労を深めていく。「あなたは誰なの」と、母親から激しい口調で外に追い出され、車で時間をつぶすこともあった。

東京新聞記事より引用

これは、本当に、つらい・・・。読んでいて涙が零れて仕方なかった。

介護に前向きな人ほど、心当たりのある事例だろう。

特に、認知症を発症している場合、コンディションが良い時の親からの感謝の言葉や笑顔は、介護者の心を満たすと同時に、「もっとやらなければ。」という強い呪文をかける。

しかし、認知症の症状とは、決して、一定ではない。朝、昼、晩と1日を通じて、コロコロと変化する。

朝には「いつもありがとう」と言ってくれたものが、夕方には、「お前は、誰だっ?! なんでここにいる?!💢」となるのも、日常茶飯事。

この破壊力はハンパない。

認知症の”悪しき症状”というのは、いつも身近で介護している者に対して、最も強く出る。

認知症であっても、たまにしか会わない他者に対しては、それが家族であっても、他人であっても、「よそ行きスイッチ」が入って、「良好なコンディション」になる。

その為、たまにしか会わない家族は、介護者が「深刻な介護ウツ状態」に陥っている事に気がつかない。だから介護者は、常に孤立感を抱いている。

ケアマネさんやディサービスなどの施設介護者も、要介護者のコンディションが良好であれば、家族介護者の体調も「大丈夫だろう」と、判断してしまう・・・。

それが、悲しい結果を生んでしまった。

◆「誰も分かってくれない」と取り乱した
そんなTさんからのメッセージが布川さんのスマートフォンに届いたのは、8月25日金曜の夕方。「辛いのに人に話す元気がなくなってしまった。疲れてしまいました」。翌朝、布川さんが自宅に駆け付けると、Tさんは「誰も分かってくれない」と取り乱した。

これ以上自宅での介護を続けるのは難しいと判断した布川さんは、母親を担当するケアマネジャーに「かかりつけ医に入院を勧めた方が良い」と電話。週明けの28日月曜、ケアマネが自宅を訪問し絶命しているTさんを発見した。遺体のそばに「もう耐えることができません。申し訳ありません」と書かれた紙があったという。

介護者を孤立させないよう周囲の見守りや介護の専門家によるサポートはあったが、刻一刻と揺れ動く介護者の心情を共有できていなかった。布川さんは「衝撃的で深い悲しみと無力感に襲われた」と明かす。

東京新聞記事より引用

周囲の見守りや介護の専門家によるサポートがあったにも関わらず、その指の間をスルリと抜けて、介護者のTさんは命を落としてしまった・・・。

”刻一刻と揺れ動く介護者の心情を共有できていなかった。”

これが全てだろう。

金曜日の夕方、Tさんから連絡を受けて、異常を感じていたのにも関わらず、週明けの月曜日の対応とは・・・。”危機管理”としては大きな失態だ。

この記事の中で、ケアマネの経験がある国際医療福祉大大学院の石山麗子教授(高齢者介護学)は、「介護者保護の不在」を鋭く指摘している。

悩みを深めてうつ状態に陥ってしまった介護者は、心療内科といった専門の医療関係者でなければ適切に対応できないと指摘。

しかし、現行の介護保険制度は、介護が必要な人(要介護者)の支援を中心に設計されており、「介護する人」を支えるネットワークが制度化されていない。
必要に応じて介護者を医療機関につなげるといった、踏み込んだ介入をする権限がある組織や専門職もない。

石山教授は「各市町村のケアマネジャー、訪問介護者、看護師、医師、介護者支援団体のスタッフなど、できる限り多くの関係者が参加し、自殺や心中防止に向けて実効的なガイドラインを作っていく必要がある」と話した。

東京新聞記事より引用

石山氏のご意見には賛成だが、現行、介護をしている当事者達にとっては、”ガイドラインができるまで”なんて、とても堪えられない。

最も、現実的で、即効性があるのは、介護者が疲弊仕切っていると異常を感じたら、即時に、要介護者と介護者を、物理的に引き離すべき。

要介護者は緊急で医療機関又は施設で保護し、介護者には、介護者の他の親族または親しい友人などに協力を要請して”保護”してもらう。(介護者を独りにしない。)

そういった機動力のある介護危機管理体制が必要だと私的には考える。


「介護者」への「無関心」、介護への「他人事」が、介護者を追い詰め、命を落とすことさえある。

それを救えていない現行の介護保険システムの不備ばかりを責めていても、始まらない。介護は毎日、1年365日24時間、続いているんだもの。

それよりも、今、介護をしている人が、身内に、同僚に、親しい人の中にいるならば、誰でもいい、「介護者」への「寄り添い」、「フォロー」、そして、「レスパイト」を考えてあげて欲しい。

心が疲弊している介護者に最も必要なのは、”レスパイト”、「休息」なのだ。

正直、「頑張ってるねー。」とか「偉いわねー。」はいらない。「そう思うなら、預かってくれ。少しでもいい、休ませてくれ・・・。」が本音。

要介護者の命を支える「介護者」の、
その命を支えるのもまた「介護」なのだ。


ここまでおつきあい下さり、誠に、ありがとうございました。
皆様のご厚誼に厚く御礼申し上げます。



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