#65【育爺日記Eps.9】ペットボトルと”哺乳瓶”の秘密。
実家に『通い介護』をしていた頃、夏場になると500mlの「麦茶」を1ケース買い、実家に差し入れしていた。勿論、水分やミネラルの補給の為だ。だがこれが、1ヶ月経っても、サッパリ減らない。
「げ。まだこんなにあるんじゃん麦茶・・・。飲んでくれよぉう。熱中症になっちゃうよ?!ったく、水分摂らないんだから・・・。」
「大丈夫だよ! 俺も、お母さんも、ちゃんと飲んでるよ!! これで!」
と、いつもドヤ顔で父が差し出すのが、愛用の500mlボトル水筒だった。
こんなヤツね。⬇️
父は、水道水をその水筒へ入れて(母の分も入れて。)家の中で持って歩いていた。夜、寝る前には、必ず満タンにして、枕元へ置いて寝ていた。
”ならば良し。”
そう思いつつ、スルーしていたが、我が家に居候する時にも、父はこの水筒を握りしめて来た。「まぁ、そうね、2Fだし、水筒もありだな。」と、その時もスルーしていた。
しかし、いちいち2Fから水筒に給水しに、階段を下りてくるのも面倒だなと思い、父の部屋に、ペットボトル(500ml)の水を1ケース、配備した。
「お父さん、ここに”お水”置いておくからね。飲んだら、空のペットボトルは、ここへ捨てておいてね。」
「うん。わかったよー。」
「じゃ、この水筒は、洗ってしまっておくね。」
「えっ?! だ、だ、ダメだよ。これは使うんだから・・・。」
「えっ?!だって、ここにお水あるから、いいじゃん。(ペットボトルで飲む・・・という想定。)」
「いや、いいんだ。この水筒は、手元に置いておくから。」
「あぁそう。いいよ。でも、このペットボトルのお水を飲みなよ?」
「うん。わかったー。」
それから数日後、寝る前になると、父は決まって何やら、ゴソゴソと動き出すのに気づいた。ある晩、その気配に気づき、そぉ~っと襖を少し開けて、父の様子を伺うと、父は、500mlのペットボトルの水を、わざわざ水筒にチョロチョロと入れ替えている。
「ちょ、お、お、お父さん、何やってんの??」
「うん?見りゃ~わかるだろ~。今、”給水作業中”だ。」
「え?ペットボトルで飲めばいいじゃん・・・。そんなわざわざ・・・(水筒に移さんでも・・・。)」
「いいの。これがいいのw」
と、本人は、妙にご満悦だ。
よくよく考えてみたら、父にペットボトルの飲料を渡しても、コップがなければ、飲もうとしない。
”ち。何だよ、めんどクセーなぁ~。いちいちコップにつがないと飲まんのか?!あんた、どこのお殿様だ?オイ・・・。先が思いやられる・・・。”
水分補給ひとつに手間暇がかかる。いやぁ~、小さな子供達と同じだな。まだ、自分で飲んでくれるからいいけど・・・。
そんなこんなで、ある日、事件が起こった。
それが、この件だ。⬇️
父は、『総入れ歯』だったのだ!!
「総入れ歯」の父は、ペットボトルの口の形状に合わせて、口先を巧くすぼめられない。だから、ペットボトルから直に飲むことが出来なかったのだ・・・。
そりゃ~麦茶を、どぉ~んと1ケース買って行っても、減らないわけだよねぇ・・・。
「総入れ歯」だという事を、他人には知られたくない父、だが、水分補給はこまめにしなくてはならないという、口を付けて飲みやすい形状の水筒を手放なさず、ペットボトルの飲料をいちいちコッソリ水筒に詰め替えたり、なるべくコップで少しづつ飲むようにしていたのは、父なりの工夫だったのだ・・・。
そのことに気づいた私は、早速後日、最新モデルの水筒を吟味し、それとなく、父にプレゼントした。
「え?新しい水筒?ど、どうかな・・・。」
「これね、”最新モデル”だよ?w 色もいいでしょ?格好良くない?
しかも、凄ーく飲みやすいよw」
「え?そう?”最新モデル”なの?!今、これが格好いいのか?!」
「さようでございますよ!!!w どうぞ!! 試されぃ!!」
「最新モデル」という魅力的な言葉に見事、食いつき、早速にペットボトルの水を移して、飲んでみると・・・。
「おおお~!! なんか、すごく飲みやすい! 凄いな! ありがとう!!😍」
(シメシメであるw)
以来、いつも父の手元にある。
夏場は、その水筒が、まさに父の「命の水」となる。
「不可解な行動だな・・・。」と思う事にも、ちゃんと理由があるのだと感じたと供に、人間の口腔内の筋肉って、無意識だけど、もの凄く繊細に動いているんだなぁ~と、あらためて驚いた1件だった。
本件の「戦略」は、”最新モデル”というくだりだなw
介護とは戦略だっ!
タイガー&ドラゴンの戦いは続く。
(あ、あと、飲みやすい形状のコップも大事w)
【育爺日記】マガジンに絶賛おまとめ中。⬇️