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#57【育爺日記 Eps.3】タイガー&ドラゴン。

『老々介護の果てに』シリーズで、多くの読者の方が、「良い父親と良い娘」という間違った心象をお持ちなのではないかと、”反省”している。

残念ながら、我々、父娘は、そういった、ほのぼのとした父娘関係ではない。まさに、タイトル通りの「タイガー&ドラゴン」な関係と、ここで訂正させて頂こう。だが、常に敵対しているというわけではなく、先のような緊急時には「キングコング」と「ゴジラ」の様に”助け合うこともある”という程度だ。

したがって、昨今、知力体力が回復してきた父に、ダラダラ甘えさせる様なことはさせない。ビシビシ、容赦ないリハビリ課題を振りまくる。

父が昔、私をそう育てたように・・・・・・

こいつぁ~面白くなりそうだ。

ウッシャシャシャシャwww 



2022年8月25日。父、退院から5日目。
猛暑が続いていた。

さすがに、『冠動脈カテーテルステント手術』を控えた父に「ちったぁ、外出て歩いて来い!」とも言えず、むしろ、サーモスタットが壊れ、体感温度が鈍くないっている父が散歩に行こうとするのを制止するのに苦慮していた。

しかし、「リハビリの為に毎日500mは歩かせて欲しい。」というY先生からのミッションを敢行せねばならない。

早朝からすでに30度近い気温に、夕方になっても、30度超えの暑さが続き、この最中に、一体、どこでリハビリせいと・・・?!

おっ!! そうだっ!! あるじゃないかw

涼しくて、楽しい格好のお散歩コースが・・・・w

私は父を連れ、かつて「日本国内最大級」の売り場面積を誇ると言われた、大型ショッピングモールへ出掛けた。ここなら、涼しく、モール内を一周歩けば、ゆうに2kmにはなるw お買い物も出来るぅ!! スタバにも寄れるぅ!! 😍

だが、若い頃から、こんな大型ショッピングモールになぞ興味のなかった父(そもそも”買い物”に興味ない人)は、まるで、浦島太郎・・・・。

人生で初めての大型ショッピングモールに、感嘆しきり。

「うわー。凄いねー!!! ここは何の施設?何屋さん?」

「ここは、”ショッピングモール”ってヤツですね。今は他の店舗に抜かされちゃったけど、出来た当時は、日本最大級のショッピングモールだったんだよ。」

「へぇーっ!! で、何を買うの?なんか買うの?」

「いや、歩くだけだ。」

「なにっ?」

「外があまりに暑くて、お父さん、歩けないじゃん?ここなら、涼しいし、所々にイスもあるし。アイスとかたいやきとか、ちょっと座って食べられるしさw 何時間いても無料!!!w」

「おぉぉぉ~😍 たいやき売ってるんか?たいやき食べたいなぁ~😍」

「よし。では、たいやき屋を目指して、参ろうっ!!」

私達は、4F屋上駐車場の中央エレベータから、1Fのたいやき屋を目指した。行程は、おおよそ500m。


右足に腓骨神経麻痺を持つ父、心臓が弱っている為、血流が滞っており、右足首から先が極端にむくんで、左足より大きく重くなっている。よって、右足を意識的に高く持ち上げて、前に進まなければ、つま先が引っ掛かり、前のめりに転倒してしまう。所謂、「鶏足」の状態だった。しかも、28cmのデカい鶏足だ。これは、ほんとに大変。

歩行には「杖」が必要なのに、「あんなの嫌だ。年寄りクサくて。」と生意気な事を抜かし、ガンとして使おうとはしない。”老いさらばえた姿”を、近所の人達に晒したくない。父は、美意識とプライドの高い人物だった。

そこで、昨今、ウチの界隈で、トレッキングポールを使いウォーキングするのが、”出来るシニア!!”というトレンドが発生していることに目を付けた私は、スポーツ用品店で、グラスファイバー製プロ仕様のcoolなトレッキングポール2本組¥14,080円!(税込み)というのを購入。(”道具”はちゃんとしたのを買うwそして、元は獲るw)

「お父さん、今、流行の”トレッキングポール”というヤツを買ってきたで。これで、堂々と、公園デビューして、”出来る男”を見せたれ!!」と推した所、イヤ、もう、その日から、毎日、朝晩2回、トレッキングポールを2本、しっかりと握りしめ、まるで、「今度、登山をしようと思っていてね。」なんていう、「ドヤ顔」で散歩に行くようになった。(シメシメである。)


「お父さん、ゆっくりで良いからね。自分のペースでね。」

「うん・・・。」

数ヶ月ぶりのショッピングモールで、お気に入りのSHOPを、通路側からゆっくりと眺めながら、時々立ち止まって、数歩後ろを歩いてくる父を見守る。

「Ilsa子は、歩くの速いな・・・。俺はついてイケない。足でまといだ・・・。」

「大丈夫だよ。ゆっくり歩くのが大事。ほらほら、お父さん、顔を上げて、あそこを見てごらん・・・。」

「ん?」

ここのショッピングモールは、「地域の高齢者福祉支援」をコンセプトに、モールが開店するまでの、朝7時から10時まで、高齢者の「リハビリウォーキングスペース」として、館内のトラック(中央通路)を高齢者に無料開放している。

ウォーキングが終わったら、館内で「お弁当」や「お昼」を買って行ってもらおうという算段だw とても素敵な良い企画だと思う。

それまで自分の足下だけを見るのが精一杯で、周囲に視線を移す事が出来なかった父、上げた視線の先に、華やかなSHOPの光景と、沢山の人の中で、自分と同じ様に、トレッキングポールや杖や歩行器を使って、一生懸命歩いている高齢者の姿があった。

「あ。あの人、俺と同じだ・・・。」

「そうでしょ?みんなね、外では暑くて歩けないから、ここへ来てリハビリしているんだよ。ここのショッピングモールは、そういう高齢者に優しい施設なんだよ。いい所だよねー。」

「そうか・・・。俺なんかが来ても、良いんだ・・・。」

「いいさw お父さんみたいな人が、”良いお客さん”なんだよw さぁ! 自信をもって歩こうっ!!」

「うむ!!」

父に気合いが入った。
だが、如何せん、”牛歩”状態である。(丑年生まれだから尚更w)

「I、Ilsa子・・・、た、たいやき屋は、まだか・・・。」

「まだ先だな。」

「そうか・・・まだか・・・。」

数十年ぶりに、多くの人がいる所にやって来て、慣れない所で、50mを歩くのにも、しんどそうだ。

「お父さん、少し、座って休もうか。あそこにイスがあるから・・・。」

「あそこって?どこ?どれ?」

「ほら、あそこの”青いシート”の大きいイスがあるでしょ?あそこまで、歩こうよ。もう少しだから。頑張れ!」

「あ!あそこだなっ!! よしっ!! 見えたぞっ!!」

そう言うと、父は途端に、それまでの”牛歩”状態が嘘の様に、スタスタスタスタスタスタ・・・と、トレッキングポールを巧く使い、リズミカルに歩き始めた。

”なっ?! なんだよっ! 歩けるんじゃねーかっ!!😱"


なまじ、優しくするのは、止めようと思ったw

それから父は、無事に「たいやき」にありつき、フードコートで、「長崎ちゃんぽん野菜多め麺少なめ」を堪能し、帰りには「本屋」にも寄るなど、本当に、久々に、”シャバ”の空気を胸いっぱいに感じて、動悸や息切れもなく無事に帰還した。

その日の夕飯時には、パパ(私の旦那)に、「今日はね、”○○ン”に連れてってもらってね、とっても広くて、凄い所だった。たいやき食べたんだw」と、まるで子供の様に饒舌に戦況を報告していた。

「えっ?!お義父さん、あそこのたいやき食べて来たんですか?で?!俺にお土産はないんですか?!」

「あ!! 忘れてたぁ~。ごめんなーw 今度行ったらなw」

久々の笑いが零れる。

退院してから、この5日間、我が家の慣れない環境で、シュンと過ごしており、夜は不安で眠れないようで、夜間に3回4回とトイレに行っていた父だったが、この日の晩は、0時前後に1度トイレに行っただけで、朝7時まで、グッスリと眠れたようだ。

”心の臓”の塩梅が心配で、「ショッピングモールデビュー」とか、まだ父には過酷かな・・・と思ったが、これが、歩くだけでなく、脳機能や、父のしぼんでしまった心には、とても良いリハビリとなった。


父が来て、3度目を迎えるこの夏、「お父さん、また暑くなって来たから、モールに行こうよ!!」と誘うも、「えぇ~、あそこ広いからヤダー。面倒くせぇ~。駐車場から遠いしぃー。俺、なんにも買うものないしさー。留守番してるから、お前、ひとりで行って来ていいよぉ~。」

”ナ・ン・ダ・ト・・・・・?!💢”


「お父さん、あそこのたいやき好きじゃん?!」

 「たいやきは、冬の食べ物でしょ?いらないよー。こういう暑い日は、クーラーの効いた涼しいお部屋で、”名古屋場所”観てるのが、サイコー😍 夜はナイターもあるしぃー😍セブンのアイスクリームが食べたいなっ!!」

「あ、そ・・・・・・。」

会話の検証からして、おそらく、認知症の発症はまだない。
しかし、これでは、ただの”ぐーたら爺ぃ”に戻っただけじゃねーか・・・。

クッソ・・・。
何か、新たなるリハビリメニューを考案しなければ・・・。

介護は戦略だっ!!

「タイガー&ドラゴン」の戦いは続く。


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