リゾートバイトで労働の闇を見た。
仲間たちと楽しく稼ごう!
リゾート地で遊びながら、自分のペースで働こう!
聞こえのいいキャッチフレーズとともに
男女6人ほどのグループが水着を着て仲良くピースサイン。
リゾートバイトの広告は気持ちわるいほどに
労働という側面を見せてこない。
かくいう僕もそんな広告に騙されて、大学5年生の夏休み、留年分の学費を稼ぐために友人とリゾートバイトに1ヶ月間参加した。
25万ほど稼げるし、3食支給で滞在費もかからない。
名前は伏せるが休みの日は有名リゾートを満喫することもできる。
僕の心は踊っていた。
初日、支給されたのは黄色いTシャツと網目のキャップ。
ちなみに友人はおしゃれなシャツとエプロン。
なんとなく、体育会系の職場に配置されそうだなと感じた。
僕が働くことになったのはフードコートにある海鮮丼屋さんだ。
予想通り、職場は体育会的な場所で、常にに大声が飛び交っている。
朝9時〜夜18時まで立ちっぱなし。米を丼によそい続ける。
休憩は1時間という内容だった。
人生でここまで米をよそう経験もないだろう。
リゾート地ということもあり、ひっきりなしに人がくる。
16時をすぎた頃には腕が腱鞘炎に近い状態になっていた。
職場を構成するのは
料理長を含む、3人の板前さんチーム
6人のおばちゃんチーム
2人の若い女性のパートさん(20代後半くらいだろうか)
そして僕を含めた3人の学生アルバイト(別の都内の大学の子だった)
現地の高校生のアルバイト2人
働いてすぐに派閥の存在に気づいた。
口を絶対にきかない人たちが存在するのだ。
基本的に板前チームはおばちゃんチームと仲が悪い。
そしておばちゃんチームの中にも派閥Aと派閥Bが存在することがわかった。
僕たち学生バイトは基本的に期間限定の補充要員という共通認識があり、みんなから一定の距離をおかれており、いい意味でも悪い意味でもドライな関係だった。
板前グループのひょうきん者のおじちゃんAさんは僕たち学生に優しくしてくれた。
ちょっとこっち来いと刺身をつまみ食いさせてくれたり、厨房で面白い話をしてくれたり、お茶を奢ってくれたりした。
Aさんはおばちゃんチームとも仲が比較的良好で、ムードメーカーのような人だった。
異なる派閥同士が一緒の空間で働くことこそないが、連携は取れていたと思う。
僕ら学生は、Aさんによく懐いており、子分のようになっていた。
職場の異変に気付くのに時間はかからなかった。
昼間は賄いが支給されるのだが、気の弱い若い女性のパートさんの賄いがみんなと違っていた。
みんなはご飯に思い思いの刺身を乗せ、海鮮丼を楽しんでいるが気の弱いパートさんのご飯には少量のイカの和え物が乗っているだけだった。
おばちゃん派閥から自由に賄いを選ぶことを禁止されていたようだった。
すごく陰湿で気分が悪かった。
さらに恐ろしいことを感じたのは皿洗いの時だ。
皿洗いは一つの施設でまとめて行っているようで、僕らはケースに汚れた皿をストックしていき、一定数溜まったら、洗い場用の施設に持っていくという形を取っていた。
皿洗いの施設では知的に障害を持った方々が働いており、洗った皿を厨房まで持っていくのが彼らの仕事だった。
彼らの勤務態度は大変真面目だったが、言葉を上手に喋れない人が多く、ありがとうと伝えても、しっかりとした返事が帰ってくることはなかった。障害のせいで仕方がない部分だと思うが、物事を伝えるのが苦手な人たちなのだなと感じた。
ある日、皿洗い施設の青年が洗った大量の皿を持ってきた。
重かったのだろう、そのひたいには汗が浮かんでいた。
するとAさんが、その青年の目の前で皿を床にぶちまけた。明らかにわざとだった。
はい。やり直し〜〜
あの優しかったAさんがこんなことを言うなんて。僕は耳を疑った。
どうせこいつらなんて口がないのと同じだから文句は言えねえよ。
顔は確かにひょうきんで温厚なAさんのままだ。でも目が、色を失ったような冷たい目をしていた。
ここからは後日聞いた話である。
Aさんたち板前は、かつてはレストランや寿司屋などでより良い待遇で働いている人たちだったが、色々あり、リゾートの海鮮丼屋に流れついた人達らしい。
自身の能力をわかっており、料理人としてのプライドがあるからこそ、労働条件の悪い海鮮丼屋に不満を持っている。また、待遇の改善を申し出ても会社は受け入れてくれないようだった。
そしてAさんはそんなストレスを立場の弱い人をいじめることで解消しているのだった。
僕は料理人の世界で生きていないから彼の気持ちはわからない。でも待遇が下がるというのはプロとして屈辱的なことなんだと思う。もちろんそれはいじめをしていい理由にはならない。
料理人を追い込む会社。
パートを差別するおばちゃん。
立場が弱い障害者をいじめる料理人。
発生した歪みがより弱い人、弱い人へと押し付けられていく。
そんな恐怖を感じた。
リゾートはお金さえ払えば僕たちに非日常を提供してくれる。
だがそのステージの裏にはもう1つの非日常があることを忘れてはならない。
もちろん全てのリゾートが問題を抱えているわけではないだろう。
ただ、こうしている今にも、泣き寝入りをしている人がいるのは事実である。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。今、心の傷を少しづつ癒しながら元の自分に戻れるよう頑張っています。よろしければサポートお願いします。少しでもご支援いただければそれが明日からの励みになります。