【創作小説】自己紹介、私について。
私は傲慢だ。
親切の皮を被った、どこまでもドス黒い「欲」と「嫉妬」を腹に飼い慣らす、それはそれは傲慢な生き物だ。
ある日から人に嫌われることを恐れるようになった。
集団という蟠りに負けないようにと高く挙げた右手がたった一本、教室で視線をかっ攫ったあの日からだ。
顔から火を噴くような思いだった。
「学級長」の横に書かれた見慣れた苗字に罪悪感のようなものを感じ、とにかく居た堪れなくて誰にもバレないよう細かく震えていた気がする。
いつだったか、堂々と手を挙げる面々に羨望の眼差しを向けながら、いざというときにしり込みする情けない勇気に絶望した。
次は絶対にしり込みしないと誓った矢先、私を除き彼らは「思春期」という名の次のフェーズへ踏み出してしまっていた。
私が憧れた彼らの中ではとっくに、学級委員に立候補をするような時代は終わってしまっていたのだ。
初めて他人から見た自分を意識した日だった。
今までであっても、多少、周囲の目が気になることはあったけれど、ここまで強烈に意識したことは初めてだと悟ったほどだ。
強烈な程に、「羞恥心」を知ってしまった。
羞恥心を覚えた少女が他人の目を気にし肝心なときでなくてもしり込みするようになるまでは、瞬く間の出来事だった。
「私」はその後、今に至るまで一度も立候補というものをしていない。
それからというもの、立候補すると他人に嫌われるのではないかというどこか自信に満ちた危機感がある。
他人にはできるだけ嫌われたくないという思いに囚われている。
誰からも好かれ、誰からも愛されたい。もう誰の真似もしなくてもいいように、誰かの真似をして恥をかかなくていいように、なりたい。
それならば、真似をされる側に、つまり愛される側に回ればいいのだと気付くのもまた、瞬く間の出来事。
嫌われることが怖くなった。
嫌われればまたこの右手をただ1人、挙げなくてはならなくなるという恐怖。
しかし嫌いな人が増えた。
嫌われることを恐れない奴が怖くなった。
学級委員に立候補するタイプが、嫌いになった。
「私」は嫌うことが許される側の人間だと自負した。それは、このカラクリに気付いた数少ない選民だという思考に基いている。とても愚かな自負だ。
「私は嫌うけれど、私を嫌わないでね。」
恐ろしい程のエゴに満ちた人生が始まった。
これが「私」のこと。
「私」の全て。