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【映画評】現代社会と芸術家の相克、やるせなさと微かな希望ーー「TAR」


難解だ。

世代間のギャップ。
自己研鑽すればするほど他者とズレていく。

ズレと苦悩。不安。

革新性を追い求める為の代償は犠牲を伴うのに、ストイックにそれを遂行すればするほど追い求める理想は現実を置いてきぼりにする。

人間のヒューマニズムのダメなところに足を取られ、でもそのヒューマニズムこそが芸術性の肝で、才能の影の側面がフォーカスされがちな昨今、芸術にはつきものとされてきた非人間性的なものも、改めなければならないのだとも思う。なんともやるせない。

などという崇高な理念と才能至上主義的在り方の是非は世間一般では明らかに非で、
主人公像が逆の立場で描かれれば、それはそれで今時の映画のあの精神性。

ただそれでも、全て周りから消えて失敗して失脚して失墜しても、原初に立ち返り、一からリスタートできる情熱こそが、本物なのだと思いたい。

現代の普通が果たして本当に普通であるのか。

簡単に安全圏から石を投げられるSNS時代に逆に一石を投じている。

細かい人の癖や騒音が気になるの凄く分かる。
あれだけの長台詞を淡々と演じ切るのも凄い。

なんにせよ、
苦々しい後味と微かな希望を残して、物語は終わる。

(フィルマークスにて、2023.7.5.)


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