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ロゴレス・パタゴニア: 敢えて主張しないブランドが企業価値を高める(CASE: 37/100)


▲「ロゴレス・パタゴニア」とサステナビリティ

私がパタゴニアの製品を初めて自分のお金で買ったのは、大学生の頃。雪国への旅行に備え、防風性能の高い服を探していた私の目に飛び込んできたのが、当時2万円を超えていたパタゴニアのジャケットでした。時給1000円そこらのアルバイトで稼ぐ大学生にとって、2万円の服を買うのはなかなかに勇気のいることです。アパレルにも環境問題にも疎かったその時の私には、パタゴニアとは単なるアウトドアブランドでしかありませんでした。

しかし、その丈夫そうな生地や普遍的なデザインは私の心を離さず、思い切って購入に踏み切りました。結果として、その決断は大正解。10年ほど経った今でも、変わらずその服は防水、防風で私の体を守ってくれています。

綺麗な水をはじめとする「資源」を大量に消費し、「トレンド」に合わせてすぐに商品を入れ替えがちなアパレル業界は、昨今環境問題の主要な原因の一つとして槍玉に挙げられています。パタゴニアは、今ほど環境問題が世間の重要な関心事では無かった1970年代から、地球環境を守る製品作りやビジネスのあり方を積極的に発信してきました。

例えば1972年には、主力製品だったクライミング用の鋼製ピトン(ハーケン。岩壁・氷壁に打ち込み、体を支えるボルトのこと)を、「岩を傷つけてしまう」という理由で販売中止にし、新たに岩を壊さないアルミ製チョックを販売しました。

また近年では、2012年のBlack Fridayに、 「Don’t buy this jacket」と題した広告をNew York Timesに掲載し、ホリデーシーズンだからといって無闇に消費することがないよう、あえて生活者に訴えかけました。

そんなパタゴニアが2021年に宣言した興味深い取り組みが、「企業ロゴ入れサービスの終了」です。同社のフリースは、特にシリコンバレーの人々に人気で、スタートアップをはじめとする企業のロゴ入れサービスは、同社の重要な収益源の一つでした。しかし容易に想像できるように、その企業が倒産したり、買収されて名前が変わったり、そこで働く人が転職したりすると、企業のロゴが書かれた服は、たとえどんなに綺麗で性能も落ちていなくても着づらくなってしまうものです。

そこでパタゴニアは「地球環境をより重視するミッションドリブンな企業と働きたい」として、このようなサービスを完全に停止しました。

この新たなパタゴニアの事例からは「あえて主張しないこと」が、企業価値を高める上で、あるいは棄損しないようにするために、重要になっていくかもしれないということがわかります。

これまでのカンファレンスや展示会では、企業ロゴの入ったお揃いシャツを着た従業員が、大量のオリジナルマグやステッカー、モバイルバッテリーを無料でばら撒くのが当たり前の光景でした。しかしこうしたパタゴニアの取り組みを理解した後では、それらの取り組みは、サステナビリティを全く考えていない無責任な宣伝活動に見えてしまいます。

自社製品を生活者へ提供した後の、製品ライフサイクルや地球へのインパクトが本当に考えられているかどうか、今後はよりシビアに、そしてあらゆる製品やサービスに問われるようになってくるでしょう。そこでは「あえて主張しないこと・やらないこと」が重要になってくるかもしれません。

▲参照資料

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イノベーション事例についてi.labがテーマにそって優れた事例のキュレーションを行い、紹介と解説を行います。
2022年のテーマは「サステナビリティ」です。

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