海草葺き屋根:バイキング時代から伝わる、アマモを使った伝統的かつエコな建築手法。(CASE: 68/100)
▲「海草葺き屋根」とサステナビリティ
もしこの世界に、耐腐食性や耐火性があり、毒性もなくカーボンニュートラルな建築資材があったら?しかも数世紀前に実用化されていたとしたら?
――建築業界の環境インパクトの大きさが指摘される現代、KEA(コペンハーゲンデザイン技術大学)の学生だったKathryn Larsenが、卒業制作としてこの技術の再興プロジェクトを開始しました。
時はバイキング時代(8世紀末~11世紀後半)の頃までさかのぼると、デンマークのレス島では、アマモという海草を使って屋根を作っていたのだそうです。葺き替えは100年ごとに行われ、耐久性や耐火性にも優れ、今も200年を経過したアマモ葺きの屋根が残っているそうです。
ところが1930年代、気候変動などによってレス島のアマモの量が減少し、この技術は一度失われてしまいました。
そこでLarsenは、伝統的な海草葺き手法の再発掘を行ったのちに、結合剤を使わずに水とアマモだけのパネルを作成しました。アマモが含む塩分が耐火性を生み、さらにアマモの持つ接着剤のような成分が、雨を受ける中で徐々に固まり、約1年後には完全な防水機能が期待できるとのことです。さらにこのパネルを組み合わせることで、従来のような大規模な葺き替えを行うことなく、設置やメンテナンスが簡単にできるようにアップデートしました。まだ実用化には遠いものの、その後も研究を続け、アマモを使ったパビリオン等の制作も行っているようです。
一方でさらに調査を進めると、デンマークから距離で7600km、緯度も20度離れた中国の山東半島にも、「海草房」と呼ばれるアマモ葺き屋根の家が残る集落があることが分かりました。観光上の配慮もあって伝統的なアマモ葺きの技術保全を市が推奨しているようです。
どちらも現代的な都市環境の要請に適っているわけではなく、現状では広く転用できるものではないものの、遠く離れた地において同じ素材を使用した建造物が作られていたこと、そしてそれぞれ100年単位で持続してきたことに驚きがあります。
伝統的な手法は、一見、技術的な洗練度が低いように思われます。しかし、サステナビリティという評価軸が加わると、近代的な建築手法と同等以上のポテンシャルを持ちえる。なぜならば環境負荷が低く、また多様な地域で活用できることが歴史的に示されているから——そんなことをこの事例は示唆しているように思います。
現代で重要な全地球的な技術というのは、意外と気づかれずに眠っているのかもしれませんね。
▲参照資料
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2022年のテーマは「サステナビリティ」です。
▲今回のキュレーション担当者
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