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合理的配慮?それとも甘え?

 最近よく部長が嫌味を言う。
「元気になったね。みんな何かしら(病気を)持っているんだから、自分だけ(配慮をして欲しいとは)言ってられないよ」
 と言い出したのを皮切りに
「来年、部長すれば?何でこの職についたの?クライアント対応だけしていれば良いんじゃないんだよ。歳をとって来ればやらなきゃいけないことは他にもあるんだよ」
などと言って責めてくる。
 
 私が双極性障害のため、随分と仕事を軽減されているのは事実だ。クライアント対応は閑散期のため、さらに仕事が少なく、ぼんやりしている時間も多い。部長はそんな姿を見て文句を言っている。私に仕事の指示を出す立場なのだから、文句があるなら「これやって」と仕事を振ればいいだけの話なのに鬱陶しい奴である。
 だが、部長の言いたいことも分からなくはない部分もある。部長自身、がんを患ったことがあり、詳しいことは知らないが、ストーマをつけている上に、何かの充電が切れると脚が痛いなどと言っている。体は辛いはずだ。だからと言って仕事が軽減されているワケではない。しかも、再任用の身であるからお給料もガクンと減っている。そこへ病気だ病気だと言いながら元気そうな私がぼーっとしているのに自分よりお給料をもらっているとなったら、そりゃ嫌ごとの一つも言ってやりたくなるだろう。

 うちは結構大きな規模の会社の割に精神疾患の人をどう扱うかの制度はほとんど整っていないように思う。何か指針があると言うよりは、その人と接する人たちの配慮やら親切に寄って立っている気がする。私の仕事が軽減されたからと言って、それを埋めてくれるパートの人が来てくれるワケではないし、私のお給料が減るワケでもない。病気に関係なく元々仕事が出来ない人(私はここにも含まれる)や、お年を召して昔ほどバリバリやれない人が閑職に就くのと同じような感じで扱われている。出世は望めないが、それでもお給料は年々上がっていく。救急車が通るために、みんながちょっとずつ寄って道路に隙間を作るように、色んな人にちょっとずつ寄っかかっているような後ろめたさはいつも感じている。そういうのが合理的配慮というのかどうか私にはよく分からない。

 こんな話をぐだぐだと精神科で聞いてもらっていたら、主治医がこう言った。
「前から思ってて言わなかったけど、君は職場からものすごく配慮されている。転勤したら同じ配慮は受けられない。僕は君の精神科医だから君にこんな感じで接しているけれど、君と同じ空間で仕事をしなければならなくなったら同じようなメンタルでいられるかは分からない。人間ってそういうものだから。社会で評価されるのは欠点の少ない人だ。君は社会に適応出来ていない」
 精神科医ってこんな本音を患者に言ったりするんだ、と驚くと同時に、少々傷ついたのも事実である。それってつまり、先生が私と一緒に仕事をしたら、私のことが鬱陶しくなって優しくしてくれなくなるってことですよね?

「私って職場のお荷物なんですかねー」
 職場で言われたことを精神科で愚痴り、主治医に言われたことを職場で愚痴り、何だか愚痴が一周回って戻って来てしまっているが、後ろの席に座っている同僚に聞いてもらった。そんなこと言われても困るのは分かっていたが、言わずにはいられなかった。彼はMr.合理的配慮、と言った感じの人で、こちらが鬱で頭が働かない時は、頭を使う部分はやってくれて仕事を単純作業に落とし込んでくれたり、会議などでストレスが溜まって激昂してしまいそうになった時は冷静になれるように上手に誘導してくれる(「ちょっと休憩しましょうか?薬飲む?」など)。あんまり暇そうにしていると簡単な仕事を与えてくれるし、指示は紙に書いてくれる。私が辛い時は話を聞いてくれるし、時には仕事を代わって早退させてくれる(しかもすこぶるイケメン)。
「そんなことないですよ」
 まぁ、そう言うしかないわな、と思っていたら、
「僕の君への優しさはずっと変わらないよ」
 と、王子様にしか言えないような甘いことを言う。その優しさも合理的配慮なんだろうか。どこまで甘えていいんだろうか。
 答えは分からないけど、のらりくらりと仕事をして行こうと新年に決めたし、部長の嫌味も人に寄っかかる罪悪感ものらりくらりとやり過ごしていこうかな。


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