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竹内義晴「Z世代・さとり世代の上司になったら読む本 引っ張ってもついてこない時代の『個性』に寄り添うマネジメント」

お金で愛は買えないけど、愛を伝えることはできる。愛のこもっていないお金は、行動を変えることができてもそれは一時的だけ、心を変えることはできない。
この本を読みながら、そんな言葉が浮かんできました。給料がもらえるから仕事をする、けれど、だからこそ頑張るとか、もっとよくしようとか、そういう気持ちになるモチベーションにはならない。昭和時代の会社には、「定年退職まで守ってもらえる」という仕組みのおかげで、愛と勘違いできるような雰囲気はあったかもしれませんが、今の世の中、そういうものは存在しません。だとしたら、今の組織に、上司のいう通りにすれば安心、ということはないのでしょう。
ではなぜ働くのか。最近は、働くのはお金やものという外発的動機付けではなく、「やりがいを感じる」とか、「やりたい仕事である」とか、「自分の特技が活かせている」といった内発的動機付けになってきているといわれています。
この本はそういうった社会の変化を前提としながら、では、どんな風に、トップダウンの組織で育てられてきた人間が、新しい世代を向き合うべきか、ということについて丁寧に書かれています。
私自身は、就職氷河期ど真ん中。この本がターゲットとしている年代に半分足をつっこみつつも、正直、引っ張っていくリーダーとかは理解できない感じがあり、こんな本が書かれて、それを必死に読む上の世代がいてくれることがちょっとうらやましかったりもします。
正直なところ、20代の時、拾ってくれた組織には感謝の気持ちはありつつも、「昭和」な雰囲気の上司たちのいうことには懐疑的でした。何しろ、「男尊女卑」がものすごかった、というのも、今振り返ると要因の一つだと思います。「男尊女卑」な考えを感じた途端、ああ、この人の考えは古いんだ、と心のどこかで壁を作っていた気がします。
一方で、尊敬する上司たちもいるのですが、その方たちはいつも部下の話をよく聞いて、真剣に考えてくれました。もちろん許容できる範囲はきっちりあって、ここまでのラインならOK、それ以上はダメ、ということもしっかり明言してくれました。さらに自分が一度OKを出したことは、通すように努力をしてくれました。この人が説明して通らなかったことは受け入れるしかない、と思わせてくれるところがありました。そういう上司たちのコミュニケーションは、ここに書かれていることにかなり近かったなと感じました。
最近、違う職種の同年代と尊敬する上司のことを話したところ、「昔はそういうことを言ってくれる人が多かった。俺が責任を取るから好きなようにやれ、と言ってくれた。けれども今は本当に減ってきている」と言っていました。もちろんどんな上司に遭遇するか、その時どんなことを担当していたのかによって、相手の個性の出方も違うだろうから、もしかしたら、そういう人がいたのかもしれません。でも、なんとなく、昔と今の「俺が責任を取るから」には大きな差があるのかもしれない、と考えたりもしました。
つまり、昔のそういう責任を取ってくれる上司というのは、右肩上がりの想定の中で、「俺が責任を取ってやる」という覚悟で済んだけれど、でも今のこの不確実性の時代においては、本当に責任を取ると言い切れる強者は、なかなか見つけにくいのかもしれません。
今の私自身は、上司もいて、同時に部下もいる立ち位置なのですが、自分がされてきて嬉しかったこと、嫌だったことを意識しながら、後輩たちに接してきているつもりでした。でもまだまだ足りないところがたくさんあるな、と反省しました。
部下と接する時には、働く動機が外発的動機から内発的動機付けに変化してきていることを意識することが挙げられています。この点を意識すると、求められる組織づくりも変化してきて、指揮命令系統よりも心理的安全性、ホウレンソウよりもザッソウ(雑談・相談)、画一的なトップダウンよりも多様性が求められます。そして、このような組織においては、部下とのコミュニケーションの方法も、1on1ミーティングが最適としています。
著者は具体的な方法として、コミュニケーションUと名付けた考え方を披露してくれています。これはメンバーと心理的な距離を近づけて支援していく様子がUの字に似ていること、さらに、マサチューセッツ工科大学のC・オットー・シャーマー博士が提唱した「U理論」(組織や集団が過去にないイノベーションを起こすためのプロセス」にかけているとのことです。
本の後半では、コミュニケーションUの具体的な方法について解説しているのですが、私自身、とても耳が痛かったのが、後輩の話を聞くときについつい共感はしなくていいということです。なぜなら共感をすると、自分も同じ感情を持ったことを思い出して、話したい欲求でいっぱいになってしまうというのです。
実は過去に面談をしたときに、相手の話を聞きたかったのに、1分以上沈黙が続いてしまうと、「こういうことですか?」みたいに話しかけてしまい、それでも相手の反応がいまいちだと、最後は自分の話をしてしまいました。まさに自分の解釈を押し付けてしまった瞬間だな、と恥ずかしく思い返しました。
お金のために仕事をしているわけではないとしても、愛というか熱意だけで仕事をして、霞を食べて生きられるわけではありません。だから、後輩たちと対話することによって、内発的動機づけができるようなそんな対話をして、「給料をもらいつつ楽しく働ける組織」にしたいと思います。

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