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レトロフランスの怪奇譚/ディクスン・カー『夜歩く』
ジョン・ディクスン・カー『夜歩く』
カーはアメリカの作家ですが、探偵役はフランス警察所属のアンリ・バンコラン。語り手のジェフはアメリカ出身。
舞台は、豪奢なフランスの貴族社会。密室の不可能犯罪から始まる怪奇な連続殺人がテーマです。
サイコパス、首切り、整形、人狼など、多彩なモチーフを散りばめた本作。
事件の真相や動機については犯人の感情が強く出ていて、サイコホラーのような趣もあります。
本作が発表された1930年の段階では、本作犯人の心理的な葛藤や矛盾は、フィクションの怪物に匹敵するほど猟奇的な要素だったのでしょうか。
カーの処女作
本作は高いストーリーテリング能力で読者を終盤まで引っ張りますが、トリックそのものには少し無理があったのではないかという感想が否めません。
偶然の要素が強く絡む方法で、謎解きとしてはフェアではない印象を受けました。終盤には壮大な複線の数々が現実的な収束を見せ、若干尻すぼみの感があります。
『夜歩く』には、様々な要素が盛り込まれています。
前述した怪奇・ロマン趣味のほか、文学作品からの引用、作劇上は不必要と思われるような語り手のロマンスまで、盛りだくさん。『不思議の国のアリス』にも複数回言及があるのですが、不可思議な作風に彩りを添えるという以上の役割は読み取れませんでした。
プロ作家としてのデビューに当たり、好きなものをすべて詰め込んだ意欲作ということなのでしょう。
横溝正史『夜歩く』
横溝正史が同名の小説を書いています。
本作からインスピレーションを受けて盛り込んだと思われるモチーフ(密室・斬首など)が多くあり、カーの作品を知った上で読むと、横溝なりの換骨奪胎が見える気がします。
旧家での愛憎劇や密室トリック、語り手の立ち回りなどにもオマージュが見られるように思いますが、厳格でシニカルな一方雄弁なアンリ・バンコランと、飄々として正体をつかませない金田一耕助のキャラクターが正反対であるため、全体の印象は大きく異なります。
どちらが先でもお互いのネタバレにはならないと思いますので、こちらもぜひお読みいただきたいと思います。
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