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今は遠い江戸の文化/横溝正史・人形佐七捕物帳シリーズ

神田の岡っ引き 佐七

先日、横溝正史の人形佐七捕物帳について触れました。

▼こちらの記事です

横溝正史が演出するのは、「捕物帳」というジャンルの様式美を王道的に描き出した江戸の世界。

  • 人形のようないい男の岡っ引き 佐七

  • やきもち焼きの姉さん女房 お粂

  • 力は強いが情にもろい江戸っ子 辰五郎

  • 大坂言葉と気質が抜けない子分 豆六

生き生きとした登場人物たちが、勧善懲悪の捕り物を繰り広げる大活劇。

横溝正史が絵草紙そのもののような描写をしているので、ふとした表現から江戸の文化を感じて面白いです。

眉を落とす女性

「万引き娘」のヒロイン・於菟女について、佐七は次のように言います。

まゆ毛落として、いまにいいご新造になるぜ。

江戸時代の女性の習慣では、結婚すると眉をそり、お歯黒をつけるようになります。

江戸名所百人美女 王子稲荷

既婚の女性の一般的な化粧方法でしたが、現代のメイク方法・美意識と大きく異なるためか、時代劇などではあまり厳密に映像化されないように思います。

2016年にBSテレ東で放映された「人形佐七捕物帳」でも、佐七の妻お粂は眉を落としてお歯黒をつけた姿では出てきません。

矢田亜希子さん演じるお粂

美少年の月代

「くらやみ婿」ヒロインのお松は、静養先の甲府で出会った美少年に惹かれます。

月代さかやきの少しのびているところが、色の白さを引き立てて、水の垂れるような美しさ。

月代は、ちょんまげを結うときに剃った部分のこと。

梨園侠客伝 御所の五郎蔵 四代目市川小團次

個人的には、“のびた月代が色白を引き立てて魅力的”という表現を初めて見たので、衝撃を受けました。

そういうものなのか。

江戸の風俗に思いを馳せる

横溝正史は兵庫の出身で、自身が読みふけった絵草紙の世界観を参考にして捕物帳シリーズを書いたと述べています。

江戸っ子というより、江戸に憧れた明治生まれの横溝による描写なのですが、今ではあまり見ないような表現を見ると、新しい世界を知ったようで嬉しくなります。

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