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lab1092
今は遠い江戸の文化/横溝正史・人形佐七捕物帳シリーズ
神田の岡っ引き 佐七
先日、横溝正史の人形佐七捕物帳について触れました。
▼こちらの記事です
横溝正史が演出するのは、「捕物帳」というジャンルの様式美を王道的に描き出した江戸の世界。
人形のようないい男の岡っ引き 佐七
やきもち焼きの姉さん女房 お粂
力は強いが情にもろい江戸っ子 辰五郎
大坂言葉と気質が抜けない子分 豆六
生き生きとした登場人物たちが、勧善懲悪の捕り物を繰り広げる大活劇。
横溝正史が絵草紙そのもののような描写をしているので、ふとした表現から江戸の文化を感じて面白いです。
眉を落とす女性
「万引き娘」のヒロイン・於菟女について、佐七は次のように言います。
まゆ毛落として、いまにいいご新造になるぜ。
江戸時代の女性の習慣では、結婚すると眉をそり、お歯黒をつけるようになります。
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既婚の女性の一般的な化粧方法でしたが、現代のメイク方法・美意識と大きく異なるためか、時代劇などではあまり厳密に映像化されないように思います。
2016年にBSテレ東で放映された「人形佐七捕物帳」でも、佐七の妻お粂は眉を落としてお歯黒をつけた姿では出てきません。
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美少年の月代
「くらやみ婿」ヒロインのお松は、静養先の甲府で出会った美少年に惹かれます。
月代の少しのびているところが、色の白さを引き立てて、水の垂れるような美しさ。
月代は、ちょんまげを結うときに剃った部分のこと。
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個人的には、“のびた月代が色白を引き立てて魅力的”という表現を初めて見たので、衝撃を受けました。
そういうものなのか。
江戸の風俗に思いを馳せる
横溝正史は兵庫の出身で、自身が読みふけった絵草紙の世界観を参考にして捕物帳シリーズを書いたと述べています。
江戸っ子というより、江戸に憧れた明治生まれの横溝による描写なのですが、今ではあまり見ないような表現を見ると、新しい世界を知ったようで嬉しくなります。
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