見出し画像

「わらべうた」のちから

河合隼雄さんの『母性社会日本の病理』をゆっくり読んでいます。
こちらの著書は、「いろいろな雑誌に発表してきたものをまとめて、一冊の本として出版」されたものですので、テーマが多岐にわたっていますが、底に流れるものは同じです。

ですから読者は、「さまざまな現象が繋がっていく」というような経験をすることができます。

第4章には「物語は何を語りかけるか」という題がつけてあります。
その中で、「マザー・グース」と「わらべうた」について触れている部分があります。

少し長くなりますが引用させていただきます。

日本のわらべうたの非常に多くは、まりつき、とか、お手玉のような遊びと結びついている。つまり、それは何らかの体の運動とともになされるものである。普遍的無意識の領域は身体の領域と分かちがたい。ー(中略)ーとすると、そのような領域(普遍的無意識)における動きを、何とか意識によって把握し言語化したものがマザー・グースであるとするならば、むしろ、そのような内容を身体的に把握し、その運動に随伴するものとしてあるのが、わらべうたであると考えることができないであろうか。

われわれ心理療法の専門家たちは、最近における心身症の増加によって、心と身体の結びつきの密接さにますます気づきつつある。心の葛藤の存在が身体症状に関係しているのであるが、この治療を行うときに、われわれは二種類の方法があることに気づきはじめている。そのひとつは夢や自由連想、など無意識的内容を素材とした深層分析であり、他方は、身体のリラクセーションや調息からのアプローチである。そして、実のところ両者は思いの他に重なりあっているのである。

普遍的無意識…人が共通して持っている無意識の世界。
よくわかりませんが、私は、焚火のそばにいると心が昂ったり、ある種のリズムが聴こえると身体が反応したり、ということと繋がっているような世界のことかな、と理解しています。

「普遍的無意識は、身体の領域と分かちがたい」と河合隼雄さんはいいます。
そして、「普遍的無意識における動きを何とか意識によって把握し言語化したものがマザー・グースであるとするならば、むしろ、そのような内容を身体的に把握し、その運動に随伴するものとしてあるのが、わらべうたであると考えることができないであろうか」と推察しています。

わらべうたのちから

そのような「わらべうたのちから」を実感したことがあります。
おそらく、多くの方が経験していらっしゃると思います。

たとえば子どものころ、または子どもを育てているとき、こんなことやりませんでした?

いっぽんばし こちょこちょ
たたいて つねって
かいだんのぼって
こちょこちょこちょ~

もう少し大きくなってくると


ずいずいずっころばし
ごまみそずい
ちゃつぼにおわれて
どっぴんしゃん
ぬけたら どんどこしょ

たわらのねずみが
米食って ちゅう
ちゅう ちゅう ちゅう

おっとさんがよんでも
おっかさんがよんでも
いきっこなしよ

いどのまわりで
おちゃわんかいたの だぁれ

とか。
わらべうたは「ことば」をつきつめると何か怖いですよね。リズムや動きとともに、人間の心の深いところに繋がっているようです。

赤ん坊や子どもたちと一緒にわらべうた遊びをするとき、大人である自分自身も、焚火のそばにいるような心の高揚、そして時には「何となく怖い感じ」を感じていました。

マザー・グースにもからだ遊びはあるよ~

河合隼雄さんがこの文章をお書きになったのは、谷川俊太郎さんが「マザーグースのうた」を出されたころでした。
『母性社会日本の病理』の発刊は1976年。
『マザーグースのうた 第1集』の発刊は1975年です。
河合隼雄さんは、谷川俊太郎さんの訳を読んで、「何とか意識によって動きを言語化したもの」と感じられたのかもしれませんね。(勝手な想像です)

ご存知のようにマザー・グースにもからだ遊びがたくさんあります。
「ロンドン橋」はよく知られていますよね。

そして「Ring-a-ring o' roses」。子どもたちが輪になってあそぶ遊び歌です。

Ring-a-ring o' roses,
A pocket full of posies,
A-tishoo! A-tishoo!
We all fall down.

バラの輪っか
ポケット一杯の花束
ハクション ハクション
みんな倒れた

この歌は、1665年のロンドンで起きたペストの大流行を表しているという説があるそうです。

ペスト菌が全身にまわり敗血症を起こすと、皮膚のあちこちに出血斑ができるのですが、それが赤い「バラ」、「花束」は薬草の束、「ハックション」はペストが肺に回った末期患者の咳。

そして歌詞の最後、「We all fall down」でみんな倒れて亡くなってしまうという恐ろしい疫病の病状が描写されているのだといいます。

日本のわらべうたの、何となく怖い感じと共通点がありますね。

「わらべうた」や「マザー・グース」、確かに人の心の深いところとつながっています。



いいなと思ったら応援しよう!