映像で読み解く(28)アニメ『ファンタジア』(1940)
ディズニーが生み出した芸術作品
ウォルト・ディズニー・スタジオは
1923年に設立されました。
初期はミッキーマウスをはじめとする
キャラクターを柱にした
短編アニメを手掛けるのと同時に、
芸術性の高い
『シリー・シンフォニー』シリーズも
展開しています。
同シリーズは、
ミュージカルの手法を
取り入れた作品群で、
キャラクターやセリフに頼らない
映像と音楽を主眼に置いたものです。
その手法を使って、
オーケストラのクラシック音楽に
アニメーションを付けた長編が
『ファンタジア』でした。
ディズニー作品としては、
『白雪姫』('37)、
『ピノキオ』('40)に次ぐ、
3作目の長編作品であり、
ミッキーの記念すべき
長編デビュー作でもあります。
(ミッキーの登場シーンは
一部に限られる)
フィラデルフィア管弦楽団による
本格派の音
劇中の演奏は、
フィラデルフィア管弦楽団が担当し、
8編のアニメーションの合間には、
司会者による解説も挿入されます。
さらに、冒頭や曲間のインターバルには
必ずステージの映像が挟まれるので、
コンサートのような臨場感が
味わえるのが魅力的です。
また、本作はサラウンドの
原型とも言える
ステレオ音響を世界ではじめて
導入した作品でもあり、
音質面におけるオーケストラ演奏の
再現度の高さにも定評があります。
演奏曲は以下の8曲です。
劇中の解説でも触れられていますが、
この中には「ストーリー性のあるもの」
「具体的な何かを描いたもの」
「抽象的なもの(絶対音楽)」の
三つの音楽があり、
それぞれの音楽性に合わせて、
さまざまなアニメーションが
描かれています。
レイヤー的な背景、
飽きのこない画面の変化
8つの短編は、
(7と8は繋がっているので、
7つの短編と見なすこともできる)
それぞれ多数のスタッフが
携わって描かれたこともあってか、
アニメーションのタッチも
かなり異なっています。
現在のディズニーのタッチに
直接的な繋がりが感じられるのは、
やはり、ミッキーが主演を務める
『魔法使いの弟子』でしょう。
魔法使いの弟子(ミッキー)が、
ほうきに魔法をかけて、
水汲みをさせるのですが、
魔法を解く方法を
知らなかったために、
井戸から水が溢れてしまう
という物語です。
影を使った演出が巧妙で、
ミッキーとほうきが
リズミカルに動き回ります。
止まらなくなったほうきを壊すために、
ミッキーが斧を振り下ろすのですが、
このシーンは、
赤い背景に黒のシルエットで
表現されています。
室内の暗い空間に、
目にも鮮やかな色が
差し込む刺激的な描写で、
かわいらしいムードを壊さずに
無理なく繋いでいます。
この他にも、自然の雄大さを描いたもの、
神話の壮大な世界を描いたものなど、
さまざまなアニメーションが登場しますが、
いずれも完成度の高い映像ばかりで、
とても戦前に作られた
アニメとは思えません。
この他に全編を通して、
本作に見られる手法として、
「セル画を用いた立体的な構成」が
挙げられます。
森が舞台の短編では、
手前と奥の木々、
その間にいるキャラクターたち、
といった感じで、
階層が複数設けられており、
手前のオブジェクトによって
画面の一部が覆われ、
視界が変化するのです。
また、視点そのものも、
上下左右、手前や奥に移動し、
時には回転して進むこともあります。
こういった画面の展開の工夫が、
魅力的な映像を作り出す要素に
なっていました。
さらに、画面の質感も、
水中では、ぼけて見えたり、
湿度の高い情景では、
霧がかかったように白っぽくなったり、
変化に飛んでいて飽きさせません。
音楽が重要な作品でもあるので、
ぜひ、音楽と映像の
テンポの合わせ方にも
注目してみてください。
【作品情報】
1940年公開
制作国:アメリカ
監督:ベン・シャープスティーン
配給:RKO