映画レビュー『鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎』(2023)怖さは「音」に宿る
鬼太郎のお父さんが主役
昨年末に『ゲゲゲの鬼太郎』の
映画がヒットしている
という話題を聞きました。
少年時代に『鬼太郎』に
夢中になった私としては、
これはかなり気になる
ニュースでしたね。
しかし、ネタバレは嫌だったので、
あまりネットの記事には触れず、
先入観なしで配信になってから
観てみました。
これがとんでもない
名作だったので、
紹介させてください。
タイトルのとおり、
本作は鬼太郎の出生の秘密が
描かれた作品で、
作中にはほとんど
鬼太郎が出てきません。
その代わりに本作の
主役を務めるのが、
鬼太郎の父親です。
作中では父親の名前は
明かされませんが、
「ゲゲ郎」というあだ名が
付けられます。
鬼太郎の父といえば、
多くの方が連想するのは
「目玉のおやじ」でしょう。
それでは、本作は
目玉のおやじが活躍する話
なのかといえば、
それは少し違います。
目玉のおやじは
最初からあのような姿では
なかったんですよね。
この物語は目玉のおやじが
「目玉」になる前の話なのです。
土着性の強い一族と
村に現れた謎の男
本作の主要人物として、
もう一人の男が登場します。
「帝国血液銀行」に勤める水木です。
本作の舞台は'50年代の日本で、
当時の日本では売血によって、
輸血が賄われていました。
帝国血液銀行は、
その売血を銀行のように
保管する組織なんですね。
水木は龍賀一族が経営する
「龍賀製薬」の担当となります。
龍賀家では当主の龍賀時貞が
亡くなったばかりで、次期当主は
まだ決まっていませんでした。
そんな中、次期当主として
有力だったのが
時貞の娘婿となった
龍賀克典です。
水木は克典と懇意な仲でした。
龍賀製薬との関係を盤石なものにし、
帝国血液銀行での出世を
目論む水木は龍賀家に向います。
この龍賀家というのが、
『犬神家の一族』のような
土着性の強い一家で、
のっけから不気味な雰囲気が
満載で物語が進んでいくんですよね。
一族が集まり、
次期当主として任命されたのは、
長男の時麿でした。
この時麿というのは、
平安時代の貴族のような
恰好をした引きこもりの男で、
どう見ても、正気の人ではないんですね。
次期当主として有力だった
克典には落胆の色が隠せません。
そんな中、時麿が殺害されてしまいます。
ここからいっきに物語はいよいよ
『犬神家の一族』めいてきます。
ここでようやく鬼太郎の父が
登場するのです。
鬼太郎の父は村に現れた
「謎の男」として、
時麿殺害の容疑がかけられ、
龍賀家の座敷牢に
閉じ込められてしまいます。
この見張りを頼まれたのが
水木でした。
水木は座敷牢にいる
謎の男とかかわる中で、
不思議な体験をすることになるのです。
怖さは「音」に宿る
鬼太郎の父は
幽霊族の生き残りで、
妻を探しているところでした。
それを知った水木は、
妻の捜索を手伝うまでになります。
男の妻(鬼太郎の母)は
果たしてどこへ行ったのか、
龍賀家との関係は?
観る者の興味を惹きつつ、
物語は進んでいきます。
本作のもっともおもしろいところは
こういったミステリー的な
仕掛けにあります。
タイトルにあるとおり
「ゲゲゲの謎」が
徐々に解き明かされていくのです。
そういった物語の展開の中で、
水木しげるの原作に見られるような
「妖怪」の世界観がしみ出してきて、
作中の世界を覆います。
また、本作はアクションシーンも
一つの見ものでした。
私が子どもの頃に観ていた
『鬼太郎』のアニメやマンガでは、
鬼太郎が妖術を使って、
妖怪と戦っていましたね。
本作も、そういった妖術も
出てくるには出てきますが、
そういう部分よりも、
純粋に肉弾戦のようなアクションが
強調された作りに感じました。
もう一つの特徴を挙げると、
本作は音の演出も
かなり細かかったです。
我が家のテレビでは
特殊なスピーカーなどは
付けていないんですが、
声が奥から聴こえてくるような
感じがあったり、
とあるシーンでは、
耳鳴りの音が再現されていたり、
とにかく、音に対する細かさが
際立って感じられました。
見過ごされがちですが、
本作のようなホラーテイストの作品では、
音の演出がものすごく大事なんですよね。
どんなに見た目が怖い感じであっても、
音に配慮がなければ、
怖さは引き立ちません。
さらに本作は'50年代の日本
という時代背景も秀逸でした。
戦後から間もない頃の話なので、
戦争の話も出てきます。
そういった史実のリアリティーが
そこに生きた人の心象を伴って
表現されているからこそ、
本作は多くの人の心に響いたのでしょう。
なお、本作は327カットをリテイクした
『真正版』の公開も予定されています。
(R15+指定。10月公開予定)
監督いわく
「本来作りたかった姿」
ということなので、
まだ観ていない方は
そちらの方を劇場で観るのも
いいかもしれませんね。
【作品情報】
2023年公開
監督:古賀豪
脚本:吉野弘幸
原作:水木しげる
声の出演:関俊彦
木内秀信
種﨑敦美
配給:東映
上映時間:104分
【原作】
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