書籍レビュー『認知症の人の心の中はどうなっているのか?』佐藤眞一(2018)他人の心をおもんばかる
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みなさんの周りには認知症の方がいませんか?
私は若い頃、こういうことがまったく頭に浮かびませんでした。
身内の高齢者のほとんどがそういう状態にならずに亡くなったので、身近に感じなかったんですよね。
しかし、近年、そういうものが身近になってきました。
私の親もまだ大丈夫ですが、いつそうなるともわかりません。
そして、自分自身だってどうなるかはわからないんですよね。
この本は、認知症の方のことを少しでも理解するための本です。
著者は大阪大学名誉教授、
社会福祉法人大阪府社会福祉
事業団特別顧問
長年にわたり「老年心理学」「老年行動学」「認知症心理学」「心理老年学」「生涯発達心理学」といった分野で研究をされてきた方です。
実際に老人が暮らすグループホームへ行って調査したり、ご自身の経験から学んだりしたことを本にしています。
「認知症」というと、脳の問題と捉えがちで、実際に脳の機能がなんらかの理由で衰えてしまうものではあります。
しかし、私も本書を読んではじめて知ったのですが、「認知症」の判定というのは、厳密に言うと、自立した生活ができるかどうかによって判定されるんだそうです。
いくら脳の機能が低下していても、誰かに介護してもらわなければ生活できないほどでなければ「認知症」ではないんですね。
この辺のところは認識を正しくしておく必要があると思いました。
本書を読むと、
認知症の方にとっての
「日常」がよくわかる
認知症といえば、やはり「もの忘れ」が思い起こされるでしょう。
ひどくなると、長年一緒に暮らしてきた家族の顔も名前もわからなくなってしまいます。
そうなると、こちらが「家族」と思って話しかけても、向こうから見れば「他人」に感じるわけなんですよね。
逆の立場になれば、こんなに怖いことはありません。
見ず知らずの人が親し気に接してくるのですから。
認知症になると、「見当識」というものがなくなっていくんだそうです。
「見当識」というのは、「いつ」「だれ」「どこ」といった時間や空間の概念です。
今がいつだか、ここがどこだか、目の前にいる人が誰かもわからなくなるということです。
この状況はパニックにならずにはいられないでしょう。
ですから、認知症の方には、穏やかに優しく接することが大事なんですね。
もちろん、毎日、家で介護をしている人にとっては、これは想像を絶するほど大変なことでしょう。
私も経験していないので、想像するしかないんですが、きっと自分が体験しても、疲弊していくと思います。
また、認知症である方にとっても、自分の伝えたいことがうまく伝わらないというもどかしさもあり、常に孤独にさいなまれる部分があるようです。
ここまで書いてきて、なんだか暗くなる話ばかりだと思うんですが、実際、この本を読んでも、想像しただけで辛くなることがいろいろ書いてあります(ゆえにこの本を紹介すべきかも迷った)。
ですが、そこを乗り越えて最後まで読んでみると、著者なりのそういった状況への向き合い方も提示されており、ただただ不安をあおっている内容ではありません。
著者は、少しでも認知症への理解が深まればという願いを込めて、本書をしたためたのです。
日本は超高齢化社会をむかえ、ますます認知症が身近になる世の中になるでしょう。
そうなった時に、少しでもそういう方への理解があれば、接し方が変わると思います。
一人ひとりの接し方が変わることで、社会が変わっていくのですから、本書の果たす役割は決して小さくありません。
「認知症」は誰かの問題ではなく、私たち一人ひとりの目の前にある問題だと思います。
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