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【読書感想文】伊藤文学『薔薇族編集長』
いまはすっかりSNSで情報を得るようになってしまったので、雑誌を買う、ということもあまりない。よっぽど気になる記事でもなければ、そもそも手を伸ばすこともない。でも、雑誌ってのはとてもいいものだと思う。インターネットが身近でなかったとき、情報を得るのはやはり雑誌だったわけで、自分が十代のときは、買った雑誌を穴が開くほど(というべたべたな比喩をしてしまうほど)読んでいた。
ところで、ゲイ雑誌ってのはグラビアのモデルの感じで棲み分けがされていた。
薔薇族→美少年
バディ→いまどきのかっこかわいいこ
さぶ→野郎系(創作多し)
G-MEN→野郎系(グラビア充実)
みたいな。豊満な人向けの『サムソン』とか、文字多めの『アドン』ってのもあったな。
中学のときに、近所のさびれた本屋でバディをよく買いました。なんというか、スポーツやってる系の男の子ってのは憧れだったので。
しかし雑誌は次々と休刊になり、バディもサイズがデカくなり、そしてゲイ雑誌はほぼ消えた。
所持するのも注意が必要だし(やっぱり家族に見つかるとことだし)、いまではエックスやインスタで裸も下着の中もすぐ見ることができる。逆に自信ある人は率先して見せようとする。ビデオとかDVDだって昔は新宿まで言って買ったもんだけれど、配信サイトで観ることができる。なんなら素人が無料で「そういう動画」を撮って載せてたりする。「たりする」なんて言い方は生やさしいかもしれない。載せている。
日常的に、気軽にエロ、を拝見することができるし、なんなら無料でけっこうなものを観ることができるなんて、まったく思ってもみなかったよ、昔は。……とジジイっぽいことを言っているわけですが、時代は進んでいるんですよね。考えてみりゃ、戦後しばらくしてからテレビ放送なんて始まったときもびっくりしただろうなー。生活スタイルってどんどん変化していっている。
前置きが長くなったけれど、ブックオフの棚に伊藤文学さんの『薔薇族編集長』があるのを見つけ、手に取った。
ゲイ雑誌編集長の回想、っていうのも気になるけれど、この手の「新しいメディアを立ち上げた人の語り」が好きなのです。
お父さんが下北沢で小さな出版社をやっていた伊藤さん。文芸ではあまり人は買わない、とエロをテーマに出版したら大当たり、流れで男性同性愛の本出すと、かなりの反響。そして、なかなか自分の心の内や性嗜好を話すことのできない同性愛者のための雑誌を立ち上げた。
創刊後大反響、そして多くのクリエイターが集まってくる。読者からの悩みも。電話がかかってきて、「だれにも相談できなかったろうに」と応対する伊藤さん。『薔薇族』ってなんか誌面にアットホーム感あったよなあ。ぼくが読んでいたのって90年代だったけれど、『バディ』と比べると、非常にクラシックだった気がする。でもおすぎさんの連載は必ず読んでいました。いまだに覚えてるもん。映画『失楽園』で黒木瞳のフェ◯チオの演技がなってない、喉動かせよ、って憤ってたのを。よりによって一番覚えてるのがそこかよって話だけれど。
さまざまな人々が出入りして、読者を見捨てない姿勢は、当時から伝わっていた。むかしは文通欄コーナーってのもあったんだよね。そこでもトラブルがあったり(謎の大富豪からの募集って、なんかでたらめすぎてすごい。しかも本当だったってのもいかれてる)。
ゲイビジネスは成長していき、エイズという病名がよく耳に入るようになり、とただのノンケがゲイ業界の生き字引になっていく。
雑誌はなくなり、ビデオはスマホで観れるようになり、二丁目のショップはけっこう呑気(に見える。でも昔からわりと)。イベントや発展、飲み屋は賑やかではあるけれど、やっぱりひとつどかんと業界の流行を全部を見渡すことができるメディアがないと、分断していく一方だな、と思う。そもそも年代やおんなじような顔かたちで集まりがちだから、外の交流ってなかなかないし。今年のあたまに池袋で上演された舞台『インヘリタンス』も継承していくこと、自分たちが歴史の流れのなかにあることを意識できなくなっているのではないか、というのがテーマの一つだったような気がする。
S N Sは自分の見たい情報しか出てこないメディアなので、最近とくに思う。
ぼくは文通欄使ったことないけど、引用されている読者からの手紙は真剣そのもの。ちょっとばかり文学的に酔っているのは時代もあるか。いまより不便で、もっと切実だった頃の記録となっていた。
伊藤文学さんの本をAmazonで検索していたら、『薔薇族』、バックナンバーが電書化されていた。アンリミに入っていたら、気軽に読めます。