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なぜ体験価値が企業の未来を左右するのか? これまでやってきてわかったCXの本質
はじめに
近年、企業の競争優位性を決める要素として「体験価値(CX: Customer Experience)」がますます重要視されています。従来の「製品の機能や価格の優位性」だけでは、もはや競争を勝ち抜くことは難しく、顧客が商品やサービスを通じて感じる“体験”こそが企業の成長を左右すると言われています。「なぜ体験価値が企業の未来を左右するのか?」について、CXの本質を深掘りしながら解説していきます。
1. なぜ、いま体験価値が重要視されるのか?
なぜ今、CXがここまで注目されているのでしょうか? それには、大きく3つの理由があります。
1.1 顧客の価値観の変化
従来、消費者は「品質が良く、価格が適正な商品・サービス」を選ぶことが一般的でした。しかし、情報化社会の進展やSNSの普及により、顧客は単に機能や価格だけでなく、「そのブランドや企業との関わり方」を重視するようになっています。
また、「モノ消費」や「所有」から「コト消費・イミ消費」「共有・利用」と言われて久しいですが、やっと実生活に根付いてきたようす。
例えば、Z世代やミレニアル世代の消費者は、単なる商品購入ではなく「共感できるブランド」を求めています。企業が提供するストーリーや価値観に共鳴することで、商品やサービスを選択する傾向が強まっているのです。
1.2 競争環境の激化
市場には類似した商品やサービスがあふれ、競争はますます激化しています。単なる機能や価格の差別化が難しくなった今、「顧客にとっての総合的な体験」こそが、企業の差別化要因になり得ます。マーケティング的にみても、新規客獲得コストが増大する傾向になります。
例えば、Appleと他のスマートフォンメーカーを比較したとき、スペックの差異はそれほど大きくないかもしれません。しかし、Appleは直感的なUI、洗練されたデザイン、Apple Storeでの充実したサポートなど、全体的な体験価値を高めることで他社との差別化を実現しています。
1.3 SNSと口コミの影響力の増大
顧客が感じた体験は、SNSやレビューサイトを通じて瞬時に拡散されます。良い体験を提供した場合、ポジティブな口コミが拡がり、新たな顧客獲得につながる一方で、ネガティブな体験はすぐに企業のブランド価値を損なうリスクとなります。
このような環境では、単に製品やサービスを提供するだけでなく、「一貫したポジティブな体験」を設計し、顧客に届けることが不可欠なのです。
2. 体験価値(CX)とは何か?
CXとは、顧客が企業とのあらゆる接点で得る「感情的な価値」や「満足度」のことを指します。これは単に商品の品質や価格だけでなく、
ブランドとの接点(広告・SNS・店舗・ウェブサイトなど)
購入時の利便性やストレスの少なさ
カスタマーサポートやアフターサービス
使用後の満足感や期待を超える瞬間
など、すべてのプロセスにおいて「良い体験」を提供できるかが問われます。
例えば、Appleの製品はスペックだけを見れば競合他社と大きな違いはありませんが、直感的な操作性、美しいデザイン、Apple Storeでのサポート体験がブランド価値を高めています。これが、CXの重要性を象徴する好例と言えるでしょう。
これまでの損得や利便性だけの「頭で満足」から、好き嫌いや共感という「心で満足」に軸が移ってくるなかでの重要な考え方です。
ここで強調しておきたいことは、「企業側の提供価値」ではなく、生活者側の「体験としての価値」ということです。よく例えるのですが、伝えたかではなく、伝わったか大事になります。
相手先に伝わったことが「体験価値」になります。
3. 企業が取り組むべきCXの具体施策
3.1 顧客のインサイトを深掘りする
CXを向上させるには、まず顧客の本音を理解することが必要です。具体的には、
顧客体験調査やカスタマーレビューの分析
カスタマージャーニーマップ(CJM)の作成
定性・定量データを組み合わせた顧客行動の可視化
を行うことで、どのタッチポイントで顧客の満足度が低下しているのかを把握できます。
3.2 体験データの活用
企業がすぐに取り組める施策の一つとして、「顧客体験価値」を全社的な指針として統一し、経営指標に組み込むことが挙げられます。特に中堅・中小企業では、社内の部署間調整に時間がかかり、貴重なリソース(時間や労力・モチベーション)が浪費されるケースが少なくありません。しかし、体験価値を基軸とした意思決定を行うことで、組織全体が顧客中心の視点を持ち、一貫性のある取り組みが可能になります。
その結果、社内の摩擦が軽減され、業務の効率化と事業成長を同時に実現できるのです。
更にはDX化をはかる好例としては、Amazonの「レコメンデーションエンジン」やNetflixの「視聴履歴を活用したパーソナライズ」が、顧客データを活用し、
個々の嗜好に応じた商品・サービスの提案
パーソナルなメッセージやリマインダー
過去の購買履歴に基づく特典の提供
などを実施することで、顧客のエンゲージメントを高めることなども可能です。
3.3 社員体験(EX)を向上させる
CXを向上させるには、まず社員の体験(EX: Employee Experience)を向上させることが不可欠です。このことは、実はニワトリが先か卵が先の議論によく似ています。私の考えとしては、もちろん従業員なのですが、多くの企業ではそこまで現場の士気が高くないことが多いです。そのため、顧客の声を用いて、従業員の方に仕事の意味を捉え直してもらっています。相手を喜ばせることで、褒めてもらえると自分にとっても非常に気持のいいことです。このループを最初に回すと、実は思った以上にスムーズにループが回りだします。そして従業員の満足度が高い企業ほど、顧客へのサービス品質も向上する傾向があります。
社内エンゲージメント調査を実施する
従業員の意見を反映した職場環境を整える
顧客との接点を持つ従業員への研修を充実させる
これにより、企業文化の強化とCX向上の両立が可能になります。
4. 体験価値が企業の未来を左右する理由
4.1 顧客ロイヤルティの向上
先にも伝えましたが、高いCXを提供する企業は、顧客のロイヤルティを獲得しやすくなります。顧客がポジティブな体験を得ると、
リピーターとして定着する
口コミやSNSでシェアし、自然なマーケティングが発生する
競合他社への乗り換えを抑制できる
などのメリットが生まれます。
特に、NetflixやAmazon Primeのようなサブスクリプション型ビジネスでは、CXがリテンション率(継続率)に直結します。優れたCXを提供することで、解約率を下げ、長期的な収益を確保できるのです。
ちなみにNetflixなどは、月の利用が少ないユーザーには、契約のランクダウンを推奨するお知らせを送りました。通常はそのままにしておくほうが、売り上げに繋がります。しかし、誠実さの表現として実施したところ、SNSで話題になり、売上が上がったという素晴らしい事例などもあります。
4.2 価格競争からの脱却
価格競争に陥ると、利益率が低下し、企業の成長が難しくなります。しかし、CXを強化することで、「価格ではなく体験価値で選ばれるブランド」になることができます。
例えば、スターバックスはコーヒー1杯の価格が一般的なカフェより高いにも関わらず、
心地よい店舗デザイン
フレンドリーな接客
パーソナライズされたサービス(リワードプログラム)
を提供することで、価格に対する顧客の敏感さを低下させています。
また、当社の宿泊業界のクライアントなどは、体験価値の維持しつつ、価格を上げていき高利益での経営をされている会社もあります。
まとめ
体験価値(CX)は、単なる「顧客満足度」ではなく、企業の持続的成長を支える戦略的要素です。優れたCXは、
✔ 顧客ロイヤルティを向上させ、リピーターを増やす
✔ 価格競争から脱却し、ブランドの競争優位性を確立する
✔ SNSを活用し、口コミによる自然なマーケティングを促進する
✔ 社員体験(EX)の向上が、最終的にCXの改善につながる
これからの時代、CXの強化が企業の未来を左右すると言っても過言ではありません。
ぜひ、自社のCX戦略を見直し、競争優位性を確立する一歩を踏み出しましょう。