昭和が息づく「むめさん」の富士宮焼きそばが最高だった
週末のキャンピングカー旅、富士宮で訪れることにしていた一軒の食堂。事前の調べでインターネットの評判も上々だった「むめさん」に向かう道中、私は期待に胸を膨らませていました。ここで私は、思いがけない宝物との出会いを果たしました!
インターネットの口コミでも評判の高いこの店は、平成5年の創業。創業当時は「むめさん」が立たれていたようですが、今では「まりさん」という女将が切り盛りしています。その佇まいは、まさに日本の食堂の象徴とも言える「肝っ玉母ちゃん」そのもの。実は、ここでの料理以上に、彼女の存在自体が店の看板なのではないかとさえ思えてきます。
私たちが訪れたのは、週末の朝10時半。前日に電話予約をしたときに10時半から11時なら来てもいいよと言われたので向かったのですが、既に店内は満席!
食事を終えて外に出た時には、すでに長蛇の列が。知る人ぞ知る、という言葉がぴったりの隠れた名店なのだと実感します。11時以降は予約すら受け付けていないと聞いて、その人気ぶりに驚くばかり。地元の方々の熱い支持を集めているのが手に取るように分かります。
今回の私の目的は「富士宮焼きそば」です。たぶんなんですが、噂のB級グルメとの出会いは人生でほとんど初めて。しかし、その味わいは、私の想像をはるかに超えるものでした。
一般的な焼きそばで使われるオタフクソースのような甘辛い味わいを想像していた私は、最初の一口で目が覚めるような衝撃を受けます。口に入れた瞬間から広がる上品な出汁の風味。麺を噛むたびに染み出てくる魚介の旨味は、これまで食べてきた焼きそばの概念を根底から覆すものでした。
カウンター席に座った私たちの目の前には、歴史を感じさせる大きな鉄板。何年もの営みが染み込んだその鉄板は、驚くべきことに油をほとんど使わなくても具材がくっつかない絶妙な具合です。長年の蓄積が生み出す、まさに職人技。その鉄板で焼かれていく焼きそばを見ているだけでも、心が躍ります。
そして、この店の魅力は料理だけにとどまりません。まりさんの存在感が、店全体の空気を温かく包み込んでいます。時折スタッフに投げかける言葉は厳しくも愛情に満ち、その場にいる誰もが思わず笑みをこぼしてしまうような、不思議な魅力を持っています。
最も印象的だったのは、常連客との何気ない会話でした。
「毎日富士山が見えていいのよ」というまりさんの言葉に、 「毎日見てたら飽きるでしょ」と返す常連さん。 すると即座に「何言ってんのよ、毎日表情が違うの」と返すまりさん。
この会話に、私は深い感銘を受けました。毎日同じように見える風景や営みの中にも、実は豊かな変化と発見がある。それを感じ取れる感性こそが、この店の料理を特別なものにしているのだと気づかされました。その感性は、長年にわたって培われた鉄板の味わいにも、丁寧に作られる出汁の深みにも、確かに息づいているのです。
店の外観は昭和の温もりをそのまま残し、カウンターに座れば目の前で繰り広げられる調理の音と香り、女将の明るい声が響きます。窓の外には富士山の雄大な姿。すべてが絶妙なハーモニーを奏でる「むめさん」は、まさに日本の食堂の理想形と言えるでしょう。
人生で一度は食べていただきたい。そう断言できる富士宮焼きそばとの出会いは、私にとってかけがえのない思い出となりました。もし富士宮に来られることがありましたら、ぜひ訪れてみてください。ただし、開店直後の予約をお忘れなく。きっと、あなたの人生の食べ物リストに、新たな一品が加わると思います。
そして、日々変わりゆく富士山の表情を愛でながら、まりさんの温かな人柄に触れ、昭和の雰囲気が残る空間で過ごす至福のひとときは、きっと皆さんの心に深く刻まれるとも思います。