探偵で犯人で被害者で証人。『シンデレラの罠』【本の紹介】
読んだ本を適当に取り出して紹介しています。
読んでいる本のジャンルがバラバラなので、紹介する本のジャンルも必然的にバラバラになってしまいます。
エッセイ、社会派と続き、今回はミステリです。
今回紹介するのはセバスチアン・ジャプリゾ『シンデレラの罠』です。
オリジナルは1962年、フランスで出版。
自分が手に取ったきっかけは、この小説が授業の中で「実験小説」として紹介されたからでした。
20歳の娘であるミシェル・イゾラ(ミ)。彼女は火事が原因で大火傷を負い、顔を焼かれてしまう。生還はしたものの火災当時の記憶は朦朧としており、何が起きたのかは忘れている。
火事により、いっしょにいた幼馴染のドムニカ・ロイ(ド)が死亡。
生きているミと死んだド。
育ての親である伯母の遺産を相続するという話になって、彼女は気づく。
ミなのかドなのか、自分は一体どちらなのか?
事件前後の情報を集めながら、彼女は自分の正体について考え始める。
主人公は1人4役。
事件の真相を突き止めようとする探偵。
事件を起こし殺人を犯した犯人。
事件によって命を狙われた被害者。
事件の真相を知っている証人。
ミステリには欠かせない4つの役割を主人公が担い、「何が起こり、そのとき自分はどんな立場だったのか」を明かすことが目的となります。
実際には、自身がミであるかドであるか、常にそれを推理します。
情報が増えるにつれ、ミ=犯人でド=被害者、ミ=被害者でド=犯人、といったように図式が変化し、状況などから自分がどちらなのかを考える必要が出てきます。
言い回しも詩的なところがあり、翻訳者の丁寧な仕事もあって綺麗な文章を読むことができます。ややくどいかもしれませんが、ゆっくりと時間をかけて雰囲気に浸るときには没入しやすい文章です。
ここで注目したいのが、2人の関係性です。
ミは愛を持って育てられ、ドにその愛はなかった。ドはミを羨み、虐げられている自分をシンデレラとまで思うようになった。
もしも成り代わるなら、どちらからどちらに変わりたいか。
そうした人間の心理的な部分までもがストーリーとして機能しています。
ミステリとしては古典に入るため、オチに意外性はないかもしれません。
しかし、ミステリという謎を通じて描かれる人間の薄暗い部分、犯人と被害者が表裏一体という状況から表現される渇望など、節々に圧倒されるところがありました。
1人4役をどう成立させたのか。
この本の中で何が起こるのか。
何者かもわからない主人公とともに、追いかけてみませんか。
気になったら是非ご一読を。
ではまた。