First love letter【💌】
赤い字で書いたラブレター、赤い血で描いたラブレター、綴れば綴るほどどんどんインクは薄くなり、どんどん脈拍は遅くなって99行目で尽きた。100行目に色をのせられなかった命のインクはもうどんな色だったのかわからない。最後の一行、最後の言葉は、一筋の白い光となって消えた。紙に描かれた物語の起承転結、その結末は、最後の絵の具が薄まって水に消えたように無責任に幕を閉じた。最後の余白には、希望に似た無数の光の粒が隙間なく敷き詰められ、白く空しく終焉した。
ここまで描いた状態ならば、最後の真っ白な一行にのせた大切な結末も、君ならきっとただしく推測してくれるだろう。このたった1枚の紙切れこそが、わたしと君の互いの生活のなかに在る、いつしかの異なる2本の時間軸を、一瞬だけでも重なり合わせてくれるに違いない。それはおそらく、君と手のひらを重ねた時に、2本の生命線が重なり合い、知ることのできない君の体温を初めて感じるようなことだ。 そんな壮大な夢を、一筋の光を、白い便箋のなかに折り畳んだ手紙の一番内側にこっそり赤く隠して、届けた。わたしが便箋のなかに閉じこめたその空気を君が指先で開放する頃には、わたしの隠しきれない赤さが時間とともにピンク色に滲んでしまっているかもしれない、と想像すると心配で、考えるほど恥ずかしくなり、手紙を出したことさえ後悔する日々が続いた。
いつも短く切り揃った君の爪が君のあっけらかんとした流暢なリズムに乗って、税金通達の封筒の次に、わたしの手紙を躊躇なく開けた。便箋に籠る空気が一瞬にして隅々まで綺麗に浄化されたその瞬間、わたしが紡いだはずの文章は語彙も字体も、見た目はそのままにして、物語の内容のみがまるっきり入れ替わったかのように、まったく異なる起承転結の抑揚を奏でているのである。 それだから、君は、黒いボールペンで書かれた99行を当たり前に真っ向から違う解釈で紐解いていき、最後の空白の一行にたどり着いた時には、わたしにはどうやったって思い付かない、今までみたことのない斬新なオチへと帰結させていた。きっと手紙の最後の一行が空白であろうが真っ赤であろうが、そんなことは君とってどうだってよかったのだ。君はもちまえの創造力と独創性で、私が一生懸命に紡いだ黒い文字列を、なんともない顔で果てしなくおもしろいモノへ昇華させたのだから。はるか上空に輝く変幻自在の色彩へと、物語の内容すべてを塗り替えてしまったのだから。
わたしが赤く燃やしたこの手紙は、いつしか虹色の風に乗り、どこまでも拡がる宇宙の果てを探す旅へと消えていった。
きっと同じ島国で、産まれてからずっとおなじ言語を使っている君とわたしの、言葉の違い。その違いの余りのおおきさが、わたしにはもどかしくて歯痒くて腹立たしくて許せないほど切なくて、そして、とてつもなく愛おしい。
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