愛の煙【詩】
恒星と惑星の距離は離れずとも縮まない。ピンと張り詰めた糸ように、互いに見つめ合い認め合いながら、その視線の糸は緩むことも切れることもなく、張り詰めた空気のなか、互いに気を張って距離の糸を張り続けている。しかしある時、ほんの些細なことが、大きな影響をもって惑星に襲いかかった。それはよくあることで、よくある小さな気の惑いだ。かつて、すこしの日差しの強さが常人に殺害を起こさせたあの日のように、惑星の一瞬の気の緩みが、永遠の距離感に乱れを引き起こした。決して触れようとした訳でも、その素顔を探ろうしたような訳でもない。ただ、無知で健康な花弁が、太陽がすすむ方向へとゆっくり顔を動かすその日向性のように、ただもう少し、あかるさが欲しくなったのだ。ただとおくの星の光を、もう少し浴びてみたくなったのだ。決してくらい魂胆があった訳ではない。遥か彼方で優しげに光る恒星のその光を、もうすこしちゃんと目に収めようとしただけなのだ。でも、惑星がとおくとおくの恒星に意識を集中させたその一瞬、彼女はまちがえて手元を狂わせ、目先の糸を1ミリ緩ませてしまった。このすこしの弛緩が、ふたりの星のあいだに在る永遠の距離感に乱れを孕まし、惑星を操る彼女は、目には収まらぬはやさで彼の光に焼け焦げてしまった。とおいとおい光に焦がれたまま、刹那く焦げて灰になった惑星からは、甘くて苦い薫りがした。それは、小さな箱の中でチョコレートが焦げた時とおなじ薫りだった。
ほんのちいさなきもちが、微々たる自然な心の動きが、後に大きな結果を齎す事は、よく在ることである。例えそれが、何億光年と刹那の誤差なく保たれてきた永久の歴史であったとしても。
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