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山下紘加『エラー』

山下 紘加 著『エラー』を読みました。

前回の記事で、次は「い」の話をすると言いました。
というわけで今回のテーマは「胃」です。
胃袋で戦う競技、フードファイターの小説です。

五感(味覚、視覚、聴覚、触覚、嗅覚)のうち、
フードファイターにとって最も大事な感覚は何でしょうか?

「そんなの『味覚』に決まってるじゃない、当たり前でしょ?」
と思うかもしれません。
確かに、それも間違いではないかもしれない。

フードファイターは、競技中に戦わなければいけないものがたくさんあります。
まず満腹感です。
フードファイターにとって満腹は恐怖です。
それと嘔吐感。吐きそうになるのに耐えながら、食べ物を胃の中に流し込み続けなければいけません。
そういう意味では『触覚』が重要とも言えます。

フードファイターにとって『嗅覚』は邪魔になることが多いようです。
料理の匂いは満腹感を促します。
競技の性質上、同じ料理を何十皿分も食べ続けることが多いため、ずっと同じ料理の匂いが続けば飽きも来ます。
嗅覚に惑わされないためのメンタルが重要になってきます。

競技は一人で行われるわけではありません。
戦う他の選手がいます。
さらにテレビで放送されるので、司会者がいたり、観客がいたりします。
他の選手の状況を目と耳(実況から他の選手のペースを知る)で判断し、残り時間をどういうペース配分で食べていくかの戦略が求められます。

五感をフルに使い、心理戦に挑み、料理によっては咀嚼のために筋力まで要求されます。

大食い大会というのは、エンターテイメントなのです。
ただ食べて終わりではないのです。
テレビ番組という性質上、選手がそれぞれの「キャラクター」を求められます。
アイドル並みの美しい容姿を持ち、食べ方も綺麗な主人公の杉野すぎの一果いちか
主人公とは対照的に、周りの目を気にせず汚い食べ方をし、ポーカーフェイスを崩さない水島みずしまかおる

主人公はまっすぐな性格で、大食い番組で勝つためにトレーニングを重ねます。
水で量をかさ増ししたおかゆを、味付けもせずに食べられるだけ食べ続けて胃袋を拡張したり、本番を想定してタイムを計測し、咀嚼から嚥下にかかる時間を把握、その時間を縮められるように鍛錬を重ねます。

その姿はまさに「格闘家」です。

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