Milkman
読み始めると、独特すぎる世界観に頭のなかが「???」でいっぱいになる。この物語には登場人物の名前は出ず、具体的な地名や国名もあまり触れられることはない。
主人公は18才の女の子。彼女の住んでいるコミュニティは、すべての小さなことがゴシップとしてあっという間に広まり、ラベル貼りされてしまう。
彼女は噂のタネになる事を恐れ、目立たないように今まで生きてきた。政治的、宗教的な対立から距離をおくことを好み、いつでもフィクションの世界に没頭する。
でもある “milkman”という既婚男性から付き纏われ始めたのをきっかけに、一方的なストーカー行為は「主人公とmilkmanの恋愛」というゴシップに発展してしまう。
現実から距離を置きいつでも本を読んでいる彼女の性格も後ろ指を指される要因になってしまい、彼女はどんどんコミュニティから疎外されていく。
比喩的な語りが強いために掴みにくいストーリーだが、北アイルランド問題を背景としているよう。
社会的、政治的、宗教的分断によって生まれるギスギスとした空気感が良く伝わってくる。
独特なストーリーテリングと、時間軸の交差するプロットに、なんとも言えないどんよりとした世界観がよく絡み合っている。
軽い読みものに、とは言えない。ただどんどんと飲み込まれていく陰湿な世界観は、経験する価値がある。