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営業マインド&スキルエンパワーメントストラテジー#07 「アイスブレイク」を「雑談」だと軽視していないか?

「急に涼しくなりましたねー」、「蒸し暑いですねぇ。夕立でもザァっと来てくれませんかねー」と、クライアントとの打ち合わせで、打ち合わせブースでクライアントの担当者が席にやってくるなり天気の話で雑談を開始する。
なぜこんな他愛もない会話をのっけからするのだろう。ビジネスでのコミュニケーションに天気の話などほぼ必要ないのに、である。
いわばちょっと長めの挨拶程度、という認識で、他愛のない「雑談」から商談がスタートする。
これはいわゆる「アイスブレイク
」である。

アイスブレイクは読んで字の如し、氷を解かす、ということであるが、なぜそんなことが必要なのだろうか。
ビジネスにおける商談の席で、天気の話など意味はなく、なにしろ盛り上がることもない。
しかし、この挨拶によって、人と人同士のコミュニケーションが円滑に始まる経験があるから、多くの人がその深い意味を認識せずに使っている
ただ、アイスブレイクの意味と効果を知ると、この天気の会話は単なる「挨拶程度」から「コミュニケーション」に昇華していくのである。

今回はそんなアイスブレイクの意味と極意を論じてみよう。

ワークショップ形式のグループワークをともなう大型研修の導入時にアイスブレイクはよく活用される。
50人とか100人規模の検収で、4人~6人を一つのチームとしてグループワークでテーマを進めていくような研修、である。
この時のアイスブレイクは、お互い初めて会うチームの構成員がお互いにコミュニケーションを取りやすくなるように、という意図で行なうものである。

研修会場に長机が向い合せに置いてあり、席を決められていて、初めて会うチーム6人が向い合せに座って研修開始を待つ、なんてこともあるだろう。
そんな時、それぞれみんなどんな人で、何をしている人か、なんてわからない。
話しかけてもいいけれど、共通の話題なんて顔に書いてあるわけもないので、話しかけづらい
年齢を察するに年上で先輩だと思うし、なれなれしく話しかけても失礼だ。なんなら感じ悪い人だとどうしよう。
なんていうことが頭を渦巻いて、研修開始前の数分間はモジモジしっぱなしである。

グループワーク型研修はチーム化し、自分たちで議論して、アイデアを出し合い、一つのテーマを作りあげて、いわば「体験」させて能力を向上させよう、という意図の研修である。
そんな研修なのに、お互いがモジモジしながら探り探りでコミュニケ―ションされるとまともに研修も成果を上げることはないだろう。
そこで手っ取り早くその「氷のように固まった雰囲気を溶かす」のがアイスブレイクである

良くあるのは自己紹介だろう。私はどこのだれで何をやってまして、という自己紹介をさせることで、人となりと情報をまず開示する。それによりお互いが共通点や興味を持つ点を見つけ合うことができる。
これにより、「へー、そんな仕事してるんだ」とか「その会社なら知り合いがいる!」といったように、チーム内にコミュニケーションを起こすきっかけを作ることができるのである。
また、一見研修内容とは関係ないゲームをすることも良くあるだろう。軽い自己紹介を済ませた後、チーム全員が発言し、行動を起こすようなゲームである。
実際どんなゲームでも簡単な人柄を見出す助けになることがある。頑固だったり、調整役に回ったり、リーダーシップを発揮したり、じっくり考えるタイプだったり、と。
そのゲームを受けて、研修が開始されるが、そのゲームでのお互いの姿勢や性格、コミュニケーション能力などがチームの役割決めに役立ったりする。
もちろん、最初のコミュニケーションだけで性格がすべてつまびらかになるわけではないので、パーフェクトに適材適所、というわけにはいかないが。
チームの役割が決まり、お互いが最初に比べて劇的にコミュニケーションがよくなれば、グループワークはより効果を発揮するのは想像に難くない。

アイスブレイクを実行することで、円滑なコミュニケーションをスタートさせるための時間短縮ができるのである。
アイスブレイクなしで探り探りコミュニケーションを取らせる、となると、よっぽど司会者のような人間が出てこない限りそれぞれがコミュニケーションをスムーズに始めることは難しいだろう。

例え話が長くなったが、冒頭の「他愛のない雑談」もアイスブレイクである。
ただ、アイスブレイクの意味と意図を認識していれば、クライアントとのコミュニケーションはより円滑にできるのである。

私の経験ではあるが、若手と新規訪問の時に、いきなり自社の会社案内を始める者がいた。
担当者と名刺交換など一通りの挨拶をした後に、「本日は貴重なお時間いただいてありがとうございます!早速ですが弊社のソリューションについてご案内させていだたきます!
といった具合だ。
電話で担当者とアポを取り、初めましてからスタートする新規見込み客への訪問の時のあるある、だ。

こんな時、担当者はほとんどが「あ、そうですか。では、どうぞ」的なスタートになり、感情もあまり出さず、いわゆる「ぬるーっと」企業紹介に入る。
若手の気持ちもわかる。貴重な時間を割いてもらったし、うちのソリューションをしっかり紹介して、わかってもらって、仕事につなげよう。と。
結果、感情の起伏もなく、担当者の反応も良くわからず、先方の貴重な時間はもちろん、こちらの貴重な時間も無に帰する

こういうとき、必ず若手に言うのは、「焦るな」である。
「伝えたい、仕事を頂きたい」という気持ちはよくわかるし、当たり前だ。だが、場を温めもせずに飛び込んだら、なんの意味もないのだから。
ここは焦らず、5分くらいは雑談して、場を温めてから提案に入るべし、なのである。

たまになぜ雑談が大事なのか聞かれることがある。
なんで先輩は雑談するんですか?お客さんは忙しいし、時間ももったいないと思うんですよね」と。
そういう人にはこう答えている。
雑談したほうが仕事が取れるからだよ」と。
ただ、こちらとしては「雑談」をしている気はさらさらなく、仕事を取るための円滑なコミュニケーションを早く構築するためのアイスブレイクという「技」を使っているのだが。

意味のない雑談は本当に意味がない。
「天気の話」はたいがい意味のない話に分類されるかもしれないがそうではない。使い方によっては最強のアイスブレイクの突破口であり、急先鋒になりうる

「今日は暑いですねー」「そうですね」では意味がない
これを広げるのである。
「今日は暑いですねー」
「そうですね」
「そうだ○○さん(先方)はどちら出身ですか?」
「私は静岡なんですよ」
「静岡なら、海が近いし、風通しもいいから、こんな暑くないですよね!どうです?東京の暑さ」
「いやあ、上京してきたときはちょっとびっくりしましたよ。」
「ですよねー。私、静岡に友人がいたことがあって、気候がめちゃくちゃいいから住みやすいだろうなあ、って思ってたんですよ」
「いやいや、台風多いし、それはそれで大変ですよ。ただ、暑さは東京ほどじゃないですがねー。でも、お友達が静岡、ってどちらですか?」
「友達は清水でした。いやー、魚、うまいですよねー」
「清水ですか!そう、魚がウマい、イイ町ですよねー」
といった具合だ。

これは一見、本当に他愛のない会話ではあるが、重要な要素を入れている。
アイスブレイクの極意、「共感」である。
暑い、というのは「共通認識」であるが、これを「共感」に持って行くのである。
暑さであれば、「どこかより暑い」、と何かと比べて暑い、と認識させることで、「共通した感覚」を呼び起こすのである。
静岡、という地域の話であれば、静岡がどういう町であるかの「共通認識」から、魚がウマい、などの「共通の感覚」を呼び起こし、
「共感」を作るのである。

アイスブレイクはコミュニケーションを円滑に取るための技術ではあるが、
営業人にとっては顧客の「共感」を得ることで、仲間意識を作る足がかりとし、
商談場所を「業者とクライアント」という対立構造を持つ環境ではなく、
「共感を持つ仲間同士」という協力構造を持つ環境にする
ためのコミュニケーション技術なのである。

共感は仲間意識を醸成する。こちらの提案が「仲間が考えてくれたこと」に近づくのである。
当然、「業者が考えてきたこと」ではあるが、それが仲間であれば、検討したくなるのが人間の心理である。

したがって、営業人はアイスブレイクを雑談として軽く扱ってはいけない。
雑談するには多くの情報や知識、幅広い考察、さらには相手の立場に立つ気遣い力も必要だ。

研修のように円滑なコミュニケ―ションができる関係を手っ取り早く構築することもできるし、
人となりを認識させて、チームの役割を適材適所に早い段階で配置する助けにもなる。
さらには、共感を醸成できるアイスブレイクなら、チームに「共感」による仲間意識を作ることで、よりチームとしての団結も強めることができるのだ。

営業人におけるアイスブレイクは、「共感」のチカラでクライアントの担当者を「味方」に引き込み、「クライアントと業者」、という関係より、「同じ課題に取り組む仲間」という構図に持ち込むことを意図するのである。
当然仕事はコミュニケーションなしには進まない。しかし、進むべき方向、意識がバラバラではどんなコミュニケーションを取っても良い進捗を期待できない。
意味のあるコミュニケーションのためにも仲間意識の醸成は重要であり、そのきっかけとなる「共感を得る」ことはさらに重要になるのである。

まずはクライアントの担当者を「味方」にすること、これが最初の一歩である。

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先輩と後輩の喫煙所でのこと。
「こないだ、女の子紹介してもらったんだよ。パリッとした恰好行ったし、トークも頑張ったんだけど、反応が薄いんだよね」
「ま、先輩はルックス悪くないですからね。外見はまずヨシ、ですよ。で、どんなトークしたんですか?」
「いや、俺の仕事のこととか、俺の学生のころのスポーツのこととか、俺が最近ハマってることとか」
「仕事もウチの会社は有名だし、学生のころはサッカーだし、もう言うことないっすもんね」
「いやいや、でも、反応薄いのよね。『ふーん』『へー』って感じ」
「で、その紹介された女性は何してるひとですか?」
「会社はなんだったっけなー。スポーツはしているタイプじゃないなー。趣味とかも読書が趣味です、って感じだったな。美人だったぜー」
「あー、そりゃ反応薄いですわ」
「やっぱりそうか。俺と合わないかー」
「いや、合う合わない、の前に、先輩、女性と付き合う資格、ないっすねー。」
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アイスブレイクで新規訪問の話題を出したので、次回は多くの人が思い悩み、拒否反応を持つ「新規訪問」のマインドについて論じてみよう。

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