実は泥臭いマーケターという仕事
自分の仕事を勝手にマーケターだと思うことに最近したのだが、おそらく世間のイメージしているキラキラした、そしてデータ至上主義のドライなイメージとは程遠く、マーケターというのはイメージとのギャップが最も大きい職種なのかもしれない。
ぼく自身の業務が実はマーケターではなかったり、一般のマーケターとは少し違った業務だったりする可能性は否めないが、実はこっそり会員となっているNews Picksのこちらの動画(抜粋版)でぼくが感覚的に頭の中で感じていたものが頭の良い人達によってかなり言語化されていて、随分と頭の整理をすることができた。
せっかく整理することができたのだから、忘れないうちに書き留めておこうと思う。
全ての発想はひとりの意見から
マーケターと聞くと、データ至上主義で何に対してもデータでドライに判断を下す、みたいなイメージはないだろうか。
無感情な人たちがただひたすらにデータによって判断していく…みたいな。
自分自身もそうだが、この動画の一流マーケターの方々も言っているように割と新商品の開発やリニューアルの発想の起点、品揃えの考え方などはイチ消費者として感じた不満の解消だったり、Twitterなどでたまたま見かけた反応だったりすることが多い。
きっかけはひとりの意見で、そこを深掘っていって最終的には調査データや販売データによって裏付けを取る、といったイメージだ。
もちろん、マーケターと呼ばれる人たちの多くは日常的に売上分析や販売動向、市場動向などの情報が土台としてあるからそういった気づきが生まれやすいのだろうが、ちょっとした日常的な気づきが思いつきとなり、仮設となって新しい商品やサービスが生み出されていくというのだからおもしろい。
重要なのはいかにそのただの“思いつき”を深く考えられるか、“思いつき”のままで終わらせずに仮設にしていけるかということだろう。
深く考えていくとひとつの“思いつき”がときに別の“思いつき”とかけ合わせされていき、どんどん理論が積み重なっていくなんてこともよくある話だろう。
ぼんやりと抽象的だった“思いつき”を具体的にしていき解像度を上げて仮説にしていく。
具体化していく作業がうまくできなかったり、理論を積み重ねていく中で自分自身で矛盾を感じるようなものは仮設ではなく本当に単なる思いつきだったという可能性もあるが、単なる思いつきだと思っていたものがまた別の思いつきの裏付け要素になったりすることもある。頭の中で熟成されて別の形として生まれ変わるということもあるのだから、ものごとを深く考える癖はつけておいて損はない。
マーケターの頭の中では、日常的にこのような思いつきが複数同時進行で動いていて、常にストックされていっているのではないかと思う。
You Tubeを見ているときや家族との買い物、取引先との商談や時には学生との面接などのちょっとしたきっかけから思いがけない仮設が生まれることもある。
普段の何気ない行動からの閃きというのは、やはり自分自身の課題に対してアンテナを立てておかなければ見過ごしてしまうものだ。
結局そこに気がつくかどうかというのは、どれだけ課題を深く考えてアンテナを立てて日々を過ごしているかということに他ならないのだろう。
データは説得力を増す道具に過ぎない
ここまではかなり感覚的な要素が大きいので、これらの仮設を調査データや販売データなどを使ってより精度を上げていくこととなる。
もうその頃になるとマーケターの頭の中では仮設は確信に近いものになっている。それぐらい、確信が持てるものでなければとても世の中に受け入れられるものは作れないのではないかと思う。
データを様々な角度から深ぼっていく作業というのは、対象となる課題を経営陣やクライアントに対する判断基準を提示するためのものだ。
自分自身はもちろんだが、同じ部署の同僚や上司は課題に対する事前知識や情報など共通認識を多数持っているため、感覚的な仮設であってもある程度は意思疎通ができ、共感を得やすい。
だが、社内でも他のセクションであったり、社外のメディア、ひいては消費者に対してであればなおさら、共通認識が少ない中で説得力が必要となる。
社内の意思決定の場であったり、メディアへのアプローチ、消費者の商品購入やサービス利用はどれに対しても納得感というものが大事だからである。
この部分をよく理解せず、ただ社内会議の資料のためにデータの裏付けを必死に探し、指摘を受けないことに終始したデータばかりを集めてしまって商品やサービスで何をしたいのか、ということを見失ってしまうというのはよくある話である。
こういった部分を疎かにしてしまうと、せっかくいい商品、いいサービスの種があったとしても、世の中に出ていく場面が失われてしまったり、消費者に受け入れられずに消え去っていく…という悲しい結末になってしまう。
マーケターとデータサイエンティストの違い
そして最も多くの人がハードルに感じているであろう、データ分析だがマーケターだからと言ってデータサイエンティストにならなければならないわけではない。
統計の知識などはあって損はないが、実際マーケター自身がR言語などを活用して統計学的観点から分析を行う、ということまでが求められているのかというと必ずしもそうではないだろう。
ぼく自身も研修でR言語に触れたことこそあるが、全く使いこなすことはできないし、たぶん1割も理解できていないんじゃないかと思っている。
統計学の知識というよりは中学の数学レベルで学んだ知識でなんとかなる。
実際、R言語や機械学習などの統計解析の世界では”なぜそのような結果になったのか”ということを明確に示すことが難しく、解析の結果がこの値を示したから、というのが理由になってしまう。
企業の、特に意思決定の立場にある幹部などには新しい商品やサービスのアイデアについての背景を説明するときに、その理由が必ずと言っていいほど問われる。
それが、会社の将来を左右する商品やサービスであれば尚更だろう。
データサイエンティストというのは、背景の考察というよりは統計結果を示す役割であり、幹部たちのこういった質問に対峙するのもマーケターの仕事だ。
なので、経営陣がほしい”わかりやすい分析結果”と統計解析では”結果が出た理由が不明確”ということを理解して、その間をうまく取り持つということも重要だ。
データ分析はピポットテーブルとVLOOKUPで十分
とはいえ、こんな複雑な統計解析を用いてマーケティングをしている企業はそうそうなく、ほとんどはマーケター自身がデータの分析等を行っているだろう。
ぼくのような文系の人間でもそれなりにデータ分析を生業とできているので、マーケターとしてのデータ分析というのはそこまで難しく考えなくても良いのではないかと思う。
実際、ぼく自身はデータ分析を行う場合でも9割以上が基礎的なクロス集計で事足りるので、数字の羅列であるローデータを集計するExcelツール”ピポットテーブル”と他のデータから情報を付加するExcel関数”VLOOKUP”を覚えればほとんどの分析は完結する。
繰り返しになるが、データ分析というのはあくまでもマーケターが直感的に持っている仮設を裏付けるものであるので、複雑な分析をせずともしっかりと目的を持ってデータを見やすくしていくという作業ができれば良いのではないだろうか。
例えば、同じ売場でもコロナ禍で売れる商品、売れない商品の明暗を分けた要因分析をするとして、それぞれの売れた時間帯や購入者の性別や年齢、利用頻度などは全てピボットテーブルで集計が可能だ。
スーパーでハーゲンダッツなどの高価格帯の商品が売れているという世の中の情報が事前情報としてある中であれば、自社の売場でも高価格帯の商品がコロナ前と比較して売れているとすれば購入者はどういった人なのかを仮定してこれらの情報を集計していくと、コロナによって獲得できた客層や離れていった客層などもぼんやりと見えてくる。
こうした分析を様々な角度からしていくことで、ぼんやりと見えているものの解像度を上げていく作業がデータ分析であるのだから、複雑な統計分析の知識よりもマーケターの感性や想像力なしではどんなに複雑なデータ分析もうまく活用がされないのではないだろうか。
当社の若手社員などでもよくありがちなのがデータ分析と張り切って、仮設がないままいきなり細かいデータを見始めてしまうこと。
データを見ていると分析している気分になってしまうから厄介なのだが、闇雲にデータを見ると膨大なデータであればあるほど、数万、数十万とある消費者の購買行動のほんの一部、せいぜい数百の購買行動をみてしまう。別の日の数百の購買行動を切り取ると全く異なる結果となってしまっていたりすると、まさに迷宮入りだ。
そんなことに時間を割いてしまうのであれば、もっと根本的で基礎的な例えば月間の売上や来店客数、客単価などの過去比較などからの気づき、仮設設計の精度を上げることに時間を使うべきだろう。
そして仮設を立てる際には、できる限り固定概念や常識を一旦度外視して考えてみることだ。
これは全くのぼくの感覚だが、マーケティング力が強みの会社や組織は社内でこういった突拍子もないことを言える風土というか職場の雰囲気、もしくは社内の雰囲気など関係なく言えちゃうような変人(褒めてる)がある(いる)のではないだろうか。
組織で言えばなるべく役職が上だったり年次が上の人間が、固定概念や常識の枠を外してあげることがマーケティングにとって一番重要なことなのではないかと感じる。
ぼく自身、社内でも後輩ばかりになってきているので誰よりも非常識で、だけどできたらおもしろいものを探し続けていくことが、結果的に組織としてのマーケティング力の強化に繋がると信じ、今日も後輩たちからバカなことを言いはじめる先輩として積極的に発言していきたいと思う。
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