「三四郎」読書感想文
著者
夏目漱石(1867~1916)
4月1日読み始め、4月7日読了。
あらすじ
東京の大学に通うため、熊本から上京した三四郎の、恋愛モヤモヤ物語。
印象に残った人物
里見 美穪子。この物語のヒロイン。冒頭に出てくる謎の淫乱女もインパクト大だが、やはり美禰子に軍配を上げる。彼女の存在が、この物語に大きな色艶を与えている。
感想
読んでいて思ったのは、「映像的だな」ということ。描写している情景がパッと目に浮かんでくる。印象に残った描写を引用する。美禰子がぬかるみを飛び越えようとしているのを見て、三四郎が手を差し伸べて…というシーン。
美禰子のやや悪女っぽい振る舞いと、それに引き込まれていく三四郎がこの情景の中に見事に表現されていると思いませんんか? 石に乗って調子を取っているのは、彼女の心そのものを表現して、そのフラフラした気持ちがストンと三四郎の両腕に落ちる。この文章を読んでいて、「はあ~」とため息が出ました。もう本当にきれいな場面。
しかし、そのきれいな場面をきれいなままで終わらせずに、「美禰子の呼吸」というかなり官能的な部分で締めくくるところに漱石のエロさを感じる。
この一連の場面は、映画だとしたらまず全体が映る「引き」で二人が映り、美禰子がひらりと渡ったあたりでバストショットで近づき、最後の「呼吸」で美禰子のドアップ。流れるような美しさとエロさを湛えたこの場面は、「三四郎」のベストシーンではなかろうか?
こういった映像的な描写は至る所に散りばめられていて、それを追うだけでもこの物語は十分に楽しめる。あんな表現こんな表現、もう全部紹介したいくらいだけど、キリがないのでもう一つだけ紹介して終わりにする。とある子供の葬式の描写。
風車の五色が一色になって回るってのが、もうなんというか、それだけで至高の芸術作品のような雰囲気を感じる。そしてその背景には白い棺。風車の一色(五色)が楽しさを、そして棺の白さが悲しさをそれぞれ現わしていて、なんとも切ない気分にさせられる。それらが三四郎の横を通り過ぎる。この場面もなんとも映像的で、何度読んでも溜め息が出てしまう。
実は、漱石の小説は「坊っちゃん」しか読んだことがなく、それはそれなりに楽しく読むことができたんだけど、あまり“凄さ”を感じることはなかった。でもこの「三四郎」には凄みがあった。淡々と描写されていく情景が、おそらく全て作者の意図通りにこちらに伝わってくる。このように構成や文章がかなり練られていると同時に、ユニークさも各所に散りばめられていて、クスクスと笑わしてもらうこともしばしば。さらに色気もあって、小説の見本のような一冊なんじゃないだろうか?
とにもかくにも、漱石が「日本近代文学の父」と呼ばれる理由がよーく分かった。まいった!降参!の一冊でした。
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