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【長編連載】アンダーワールド~冥王VS人間~ 第二部ー62

「丑三つ時」

そんなコンプリート騒ぎから数日後―――

夜中に悪霊が増え牧野はベッドからたたき起こされ、
ヘルプで向井と佐久間、田所も下界に下りた。

丑の刻は鬼門とされ、
陰が入り込む時間と古来より言われている。

丑三つ時は冥界に通じてしまうので、
冥界人にとっては関係なくとも人に合わせ鏡はタブーの一つだ。

ただ、人とはあえてタブーをするものも多く、
丑の刻に霊を暴れさせることをする。

取り込まれて騒ぐのも人なら追われて騒ぐのも人だ。

そしてその時間になんとか祓おうとお経を唱えることで、
霊に取り憑かれるのも丑三つ時である。

「いい加減にしてほしい。
あんな馬鹿な奴ら助ける意味って何? 」

牧野が腕組みしながら悪霊に追われている若者を見る。

「自分で呼んだんだろ? 」

「牧野君も同じようなことした経験が、
あるんじゃないの? 」

霊銃で裏通りの悪霊を始末してきた田所が笑いながら言った。

「俺はあんな馬鹿じゃない!! 」

「分かったから、さっさと消して帰ろう。
霊電集めるなら冥界札じゃないと無理だから」

佐久間がムスッとしている牧野の肩を叩いた。

「彼らが冥界に来たら、
牧野君もゆっくり眠れないと思うよ」

向井が時を止めると牧野は渋々悪霊に向かって、
息を吹きかけ冥界札を投げつけた。

札に取り込まれ禍々しい気は一瞬で消え、
静かな夜が戻ってきた。

腰を抜かしていた若者は気絶しているが、
そこまで面倒を見る義理もない。

牧野も寝不足で不機嫌なようだし、
彼らは仕事を終えることにした。

「牧野君、お腹空いてない?
この裏に24時間営業のつけ麺屋があるから食べて帰ろう」

田所がいい、

「ラーメン!? いいね~」

牧野のご機嫌を戻すのは簡単だ。

向井達は笑いながら歩き出した。

――――――――

冥界に戻ると死神課の受付にはセーズが残っていた。

普段は厨房担当の死神だが、
アイドルのような容姿で舞台関係の憑依でも活躍している。

「ご苦労様でした。
デザートを食べるなら食堂に用意してありますよ」

「食べる食べる~」

牧野が嬉しそうに駆け出して行った。

「あれだけ食べて、まだ入るのか………」

田所は笑うと、

「俺はもう寝る。さすがに夜中の仕事はきつい」

と自室に戻っていった。

「私は食堂でケーキをもらってきます」

佐久間も牧野の後を追って歩き出した。

「実はさっきまで安達君の傍に冥王がいて、
皆さんが戻るのを待っていたんですけど……」

セーズの話に向井が驚いた。

「安達君に何かあったんですか? 」

「大丈夫です。
ほら、今日は安達君の命日じゃないですか」

そういえば、安達は命日になると仕事も休んで、
冥王と一緒にいるのが決まりごとになっていた。

暦の上では旧暦、新暦に関係なく十月は神無月。

神がいなくなる月といわれている。

安達はそんな神無月に生まれ、
また亡くなっていた。

「殺害された日はいつもなら魂魄が暴走するんですけど、
今年はリングと魂が安定していて、
封印されているみたいなんです。
こんなことは初めてで、
先程までデザート食べてお祝いをしてたんです」

「そうなんですか。よかったです。
じゃあ、デザートってその残り? 」

「そう。
夜中に皆さんが出て行かれたので、
戻ってきたら一緒に食べるって言っていたんですけど、
結局冥王と食べて待ち疲れて休憩室で二人で寝てます。
笑えるから、覗いてみるといいですよ」

セーズが笑いながら言った。

向井が休憩室を覗くと、
冥王と安達が寄り添って寝ている姿があった。

確かに笑えるな。

向井はその足で食堂に向かった。


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八雲翔
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