【長編連載】アンダーワールド~冥王VS人間~ 第三部ー78
「妖怪 クロと呉葉」
「ほお~凄いの~特別賞とやらを取るとは」
若侍のような姿の黒狐が言った。
「まぁな。おぬし等にも見せてやりたかったぞ。
人気投票で一位になったその副賞の菓子だ」
「うまいの~」
黒狐のクロは美味しそうに頬張った。
「当たり前じゃ。名店の菓子折りよ」
虎獅狼と千乃は得意げに話しながら、
妖怪たちと公園で菓子を食べていた。
「わらわも出たかった」
鬼の姿をした可愛らしい姫が、
菓子をもぐもぐ食べながら言う。
「呉葉、お前の魔の力は人間どもにはエグすぎてうけん。
もっと愛嬌のある………ほら、
そこらのわっぱどもが持っておる魔法のステッキか?
ああゆうもので変身でもすればウケるかもしれんがな」
「………」
呉葉は不機嫌そうに眉根を寄せた。
「で、優勝したのは誰だ? 」
「それが死神にやられた。
一人はへたくそなダンスなんだが、それが大うけでな。
もう一人はイイ男で、これも客に大うけよ」
「それは仕方がないの」
クロは笑うと菓子を口に放り込んだ。
――――――――
虎獅狼と千乃を探していた向井は、
アーケードを抜け公園に向かった。
ただの広い空き地の公園にはベンチとテーブル以外何もない。
木々は目隠しになり犯罪の温床と少しだけ植えられ、
昔の子供たちが遊んでいたものは危険遊具と言われ、
略取り外されているので、
休憩するための場所のようになっている。
子供の数も減り、
道具を使って遊ぶこともできないので、
いるのは年寄りか姿は見えないが妖怪のたまり場になっていた。
向井は公園に入ると、
この辺りにいつもいるからな………
と周りを見渡す。
すると奥のベンチに妖怪四人の、
何やら楽しそうな姿が視界に飛び込んできた。
「ここにいましたか」
向井が声をかけると、
「おお~今、発表会の話で盛り上がっていたところだ」
虎獅狼が言った。
「お二人はサロン客に人気でしたよ。
羽の生えた冥王に化けた姿は皆さん大喜びでしたから。
お菓子ももらえてよかったですね」
向井も笑顔で話した。
その姿をじっと見つめる可愛い姫に向井は気づいた。
「お友達ですか? 」
「そう。呉葉とクロよ」
千乃が紹介すると、
「次に発表会があるなら俺も出たいぞ」
クロが向井を見た。
「虎獅狼達に聞いていると思いますが、
ブレスレットを装着されるのでしたら、
冥界に来られますよ」
「だったら次は俺も出る!! この菓子が欲しい!! 」
「美味しかったですか? 」
「うむ。美味だ」
「次に開催が決まったら、
この四人で出られたらどうですか? 」
「それはいいの~冥王に第二回をやってくれと、
お前からも頼んでくれ」
虎獅狼もやる気満々の様子だ。
呉葉がもじもじしながら千乃の後ろに隠れる。
見た所、三鬼やこんと変わらない年のようだ。
「こやつは人見知りでな。
人間は特に苦手なんだがお前には興味はあるようだな」
「呉葉も女の子だから、いい男には弱いのよ」
千乃が笑った。
「褒められて悪い気はしませんけどね」
向井は戸惑うように笑った。
「で、何か用か? 」
「あぁそうそう。これ」
そういって、向井は小さな袋を手渡した。
「この前、虎獅狼と千乃が作っていたプラ板です。
青田さんがアクセサリーにしてくれましたよ」
「それはわざわざ、すまんの」
虎獅狼と千乃が嬉しそうに受け取った。
「これなんじゃ? 」
呉葉とクロが袋の中身を覗く。
「可愛い………」
呉葉は千乃のヘアアクセサリーを見て笑顔になった。
「これはどうやって作るんだ? 俺も作りたいぞ」
クロも虎獅狼のブローチを見て、向井を見上げた。
「これはな、冥界の工房で教えてもらって作るんだ。
この他にも針を刺して人形も作れるしな」
向井の代わりに虎獅狼が説明していると、
「人形に針を刺すのか? そりゃ呪いの人形だろ」
クロが言う。
「違うわよ~本当に可愛いお人形が作れるの。
私は次にそのニードルに挑戦するのよ」
千乃が笑顔になった。
「わらわも作りたいぞ」
呉葉はアクセサリーをじっと見つめたまま言った。
「だったら許可をもらって、
ブレスレットを装着して工房で作られたらどうですか? 」
そんな話をしていると、突然大きな揺れが起こった。
「地震じゃ」
五人は大きく揺れる地面に座り込み、
おさまるのをじっと待った。
公園の周囲でも人々が立ち止まり、
揺れが緩やかになるまで動かずにいた。
「ん? おさまったか? 」
虎獅狼は立ち上がると、辺りを見回した。
「最近、特に多いですよね」
向井も周囲を見ながら、怪我人がいないか確認する。
「人間どもが自ら結界を崩しておるからの」
「結界? 」
虎獅狼の言葉に向井が怪訝な顔をした。
「ん? そうか。お前は知らんのか。
だったら俺からは言わんが、
気になるなら冥王に聞くがいい」
思い見る向井に虎獅狼はそれだけ言うと、
千乃たちとアクセサリーを見ながら楽し気に話し始めた。