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【長編連載】アンダーワールド~冥王VS人間~ 第一部ー8ー

「子鬼」

そんな早紀と安達の様子を、
じっと見ていた子鬼が震えだした。

早紀がその姿に、

「ほら、安達君がむすっとしてるから、
この子が怖がってるじゃない」

「違う。みんなで溜まってるから霊が集まってきた」

向井が周りを見ると、
確かにいつもより多いかもしれない。

幽霊だけじゃなく生霊もいるので、
感知能力が高い人間は、
きっと気分が悪くなるだろう。

特例の人間はオンオフで切り替えているので、
仕事をしないときはオフにして、
霊を見ないようにしている。

センサーを切っておかないと、
見えっぱなしで疲れる。

牧野が子鬼に言う。

「霊なんて見なきゃいいんだよ。
怖がると寄ってくるから気にすんな。
俺なんか切り替え面倒だし見えても無視するのみ」

「はあ~大物だわ~
あたしなんて仕事が終わったら、
シャッター降ろしちゃうからほぼ見ない。
だって上に行ったら死人だらけなのよ。
下でも幽霊見てたら神経参っちゃうじゃない」

「この子はまだ子供だし、
妖怪は長生きだから、
使役には時間がかかるかもしれませんね」

向井の言葉に、

「じゃあ、悪霊退治なんて無理じゃん。
幽霊怖い妖怪なんてどうやって生きてくのよ。
すぐ死んじゃうわよ」

「僕、死んじゃうの? 」

早紀は子鬼を見下ろした。

「……ほかの妖怪に食べられるか、
悪霊に取り込まれるか。
二つに一つだわね」

両手で子鬼を襲うような仕草をした。

泣きそうな顔の子鬼に、

「お前は意地が悪いな」

牧野が刺身を食べながら言った。

そんな子鬼を見て、
向井は席を立つとひょいっと、
子供を抱き上げるように片腕に乗せた。

「俺はここで帰るとします。
これ以上お偉いさんを待たすわけにもいかないからね。
この子は俺が死神のところに連れて行くから、
君らはもう少し飲んでていいですよ」

「えっ? いいの? 」

牧野が喜んだ。

「若いもん同士、
たまにはのんびりするのもいいだろ? 」

「そういわれたら、俺も帰らなきゃな」

田所が笑った。

「働き過ぎで、死人の過労死だって言ってたでしょ。
ここらで帰って寝るのがいいと思いますよ」

向井はそういうと子鬼に話しかけた。

「許可が下りれば名前ももらえるし、
施設で暮らせる。
ご飯も食べられるし、
おもちゃで遊べるよ」

「ほんと? 」

「ああ」

向井はそういうと、

「ここまでの飲み代は俺と田所さんのおごり。
追加分は君らで払ってください」

「ラッキ~ゴチになります!! 」

「えっ、俺も払うの? 」

驚く田所に、

「当然でしょ。
一番飲んで食べてたんですから」

向井は皿から一本つくねを取ると、
食べたそうにしていた子鬼に渡した。

子鬼が嬉しそうに口に入れる。

二人は楽しげな四人を置いてレジに向かった。

支払いを済ませると、
丁度新たな客が数人入ってきた。

「いらっしゃい」

店員が声をかける。

「今日はドローンの数が多いよな」

「政府偵察機だろ」

「気をつけないと不穏分子にされて捕まるぞ」

「この前も政策に不満を漏らしただけなのに、
連行されたやつを見たよ」

「あ~やだやだ。
まさかお前スパイじゃないだろうな」

「そんなわけないだろ」

客は不満げに呟きながら、
店の奥に歩いて行った。

店員はその話に店の外に出て空を見上げた。

「この辺も政府法案に逆らった店が、
何軒も潰れてるんでうちも気をつけないと」

「大変ですね」

向井が言うと、

「仕方がないです。
一つ反対すると新たな法案ができちゃうんで、
うちのような店はもう何もできないです。
商売の許可が下りてるだけで有難いですね」

店員は苦笑いすると、

「また来てくださいね」

と店に戻った。

「なっ。これだから再生するのに悩むわけよ。
もう少しこの仕事してるかな」

田所はそういうと歩き出した。

向井もそのあとをゆっくり追っていく。

生きるも地獄。死ぬも地獄。

同じ地獄なら冥界にいるほうが自由か……

向井はフッと笑った。


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