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【長編連載】アンダーワールド~冥王VS人間~ 第二部ー68

「マルシェにお出かけ」

金曜日――――

牧野は朝から悪霊騒ぎで隣町まで出かけて行った。

佐久間とエナトを引き連れて行ったので、
向井達は安心してイベントに出かけられた。

安達は初めての遠足のように朝から張り切っていたので、
早紀とティンが、
「何かあるの? 」と休憩室にやってきた。

「今日は安達君が楽しみにしている手作りのマルシェがあるので、
これから出かけるんです」

「マルシェ? 」

早紀とティンが同時に聞いた。

「手作り品とかキッチンカーとか、
まあイベントですね。
安達君は欲しいものがあるみたいなんで、
みんなで出かけることにしたんです」

「みんなって? 私も行きたい」

「トリアさんと弥生ちゃんも行くんですけど、
時間があるならお二人もどうですか? 
安達君も喜びますよ」

「だったら俺も行こう」

早紀とティンも増えて賑やかになり、
安達も嬉しそうに、

「お土産買ってくるから」

といじける冥王を置いて下界に下りて行った。


「いいお天気でよかったね」

ティンが公園の中を歩きながら店をゆっくり覗いた。

道の左右にテントが張られ、
色んなものが並べられているので、
安達じゃなくても目移りしてしまう。

ティンも楽しそうに見ていた。

「へえ~こんなものも手作りで売られてるんだね」

レザークラフトを見つけると、

「これ買っていこう」

ティンはレザーのコードブレスを購入した。

安達はお目当てのショップを見つけたようで、
弥生たちと作家さんのお話を聞いている。

「ああやっていると、
お姉さんに連れられてきた子供に見えるね」

ティンが笑った。

「安達君の体は、
殆ど魂に精気を吸い取られている状態なので、
成長できなかったんでしょうね。
同世代の子より一回り小柄ですから」

「そうだね。
特殊な魂の場合は器を選ばないと暴走してしまうので、
普通は生まれてこれないんですけど、
安達君の体は受け入れてしまったんだよね」

ティンも何故だろうと考えこむように言った。

恐らく、安達の魂が一つではなく、
融合されてしまったからなのだと思われるが、
そのことを知るのは冥王と恐らく一部の死神だけなのだろうから、
ティンには不思議なんだろう。

「これ見て~」

安達が箱をもって走ってきた。

その姿に作家が笑って見ていたので向井とティンも軽く会釈した。

「何買ったの? 」

ティンが聞くと、

「キャビネット」

「立派な家具だね。
ミニチュアでこんなのが作れるんだ。
十朱さんのにも驚いたけど、
安達君や冥王が夢中になるの分かるね」

ティンは箱の中を見て驚くように言った。

「安達君、作り方もちょっと教えてもらったのよね」

弥生が笑顔で言った。

「安達君には内緒だけど小学生だと思ったみたい」

早紀が向井の耳に口を寄せて話した。

「トリアが支払ったから、
優しいお姉さんですねって言われてた」

口元に両手を当ててくすくす笑った。

「まあ、安達君がご機嫌だからいいけどね」

トリアも笑いながら言う。

「あっちのキッチンカーでクレープ売ってるから食べようよ」

安達が言うと、

「いいけど、
私一つエプロンワンピ欲しいからそのあとでもいい? 」

「いいよ」

弥生と並んでお気に入りのお店に歩き出した。

「私も一つイヤーカフ買っちゃった」

早紀も久しぶりの買いものに楽しそうだ。

「たまにはこんな風にみんなで出かけるのもいいね。
知ったら牧野君、怒るだろうけど」

ティンはからからと声を出して笑った。

そのあとものんびり見て回りながら、
クレープ食べて、タピオカ飲んで、チキン南蛮食べてと、
向井達もはしゃぐ安達に振り回されながら、
それでも久しぶりにみんなで楽しい時間を過ごした。


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八雲翔
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