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【詩】光合成
夜の間に全て無事に着いたそう。
部屋の中に影はなく、
朝日が照らしている。
口から透明な空気が入って体を冷ますと、
細胞が軽くなっているのを感じた。
「まだ残っていてほしかったものが
いくつかあったな」
ふとした一言で我に返る。
今だからそんなことが言える。
ずっとこうなることを望んでいたのに。
それでも諦めきれない気持ちがあって、
時折、視界の隅に反応してしまう。
パジャマを着替えながら
コーヒーを飲みながら。
けれど人間よりも遥かに速いから、
僕の周りに昨日はなかった。
細く千切れた欲を握って、
出発までの時間を過ごした。
体に蒔かれた種は
知らないうちに発芽して、
人間の形を崩していく。
バオバブの木みたいに
みるみる大きくなるそれは、
伐採すれば死んでしまう。
だから僕たちは、人から人へ植え替える。
耐えられなかった人のことは気に留めず、
生命活動に忠実に。
「これを禁止するべきだ」と
昔、声の大きな大人たちが叫んだらしい。
今はもう教科書の隅に載っているから、
落書きしても伝わらない。
あなたに届いてほしくなくて、
けれど自分でも処理できなくて、
僕は体の種を植木鉢に入れた。
蒔かれたばかりだったから、
気づかないふりをすることもできた。
公園から取ってきた土を敷き、
水も肥料も一切与えない。
そうすれば勝手に終わると思っていた。
でも、僕が症状を自覚すると、
種は光を含んで発芽した。
それは自身の光を養分として成長する。
何度か鉢を大きくしたが
すぐに収まらなくなり、
結局は庭に植えることにした。
小さな種から始まったそれは、
いつしか大きな木となった。
立派な枝や葉を広げて、
今もなお光り続けている。
光る木は珍しいものではないのに、
なぜかみんな、光る木が好きなんだ。
家の前を通る人は
微笑みながら見つめていた。
僕はそれが気に食わない。
これは決して
他人に見せたかったものじゃない。
数年経って
嫌いな人が僕のもとを訪れ、
この木を植物に戻してくれた。
それは僕が望んだこと。
ただの樹木に興味はなく、
みんなで踏み固めた地面が
路となって残っている。
きっと僕がいなくなってから、
この木は他の木と一緒に等間隔に植えられて、
歩く人の心を癒やすのだろう。
冬には電飾が付けられて、
大勢の人が見に来るのかもしれない。
僕はそれが嬉しい。
たとえ僕の意思とは違う、
可笑しな光り方をしていたとしても。
誰にも届かないものが
誰にも留まらず、
もう消えてしまったものとして
確かに存在している。
僕はそれが、たまらなく嬉しい。