【舞台感想】円満井会定例能
金春流の今年初の公演。セリフが聞こえない問題に悩みながらも、初めての女性のシテ方や地謡がとても響いて一層ハマりそうな気配を感じたという話です。ネタバレ?します。
概要
演目は、能の謡の部分だけの「翁」からはじまり、能は「歌占」と「三輪」、狂言は「酢薑(すはじかみ)」。三輪の前に仕舞で「老松」「忠度」。といったラインナップでした。これまでは、入門系の公演しか観たことがなかったのでこのフルコースは初めて。
「歌占」:失踪した父親を捜していた幸菊丸は、白髪の歌占(弓の弦に歌の短冊をたくさんぶら下げておいて、そこから引いたものを解釈する占い。タロットカードの和歌版)に出会う。この歌占こそ諸国を巡っていた父であったことが判明し、父が経験したという臨死体験中の地獄の様子を舞って見せてもらう。
「三輪」:毎日お供えをしに来る女性に玄賓僧都が話を聞いてみたところ、衣を一枚所望され、それに応える。住まいを聞いてみると三輪で目印があるというので訪ねてみると、確かに渡した衣がかけてあり、裾に歌が書かれていた。その住まいから現れたのは三輪明神本人で、天岩戸の伝説を語り、伊勢の神とは一体分身だという。
「酢薑」:薑売りと酢売りが商い場所でかち合ったので、ダジャレ勝負で決めることにする。なんだか楽しくなってきてしまって一緒にやればええやん、となる。
感想
「三輪」のシテ方が女性で女面というのが初めてで、すっっごく良かったのです。声の違いくらいなはずなのだけれど、後シテ(三輪明神の姿)のときの人間離れ感にはっとした。前シテ(前半の時の姿)の里女の時もリアルでいいなあ、と思っていたものの、やはりあのオーガンジーのような青緑の生地に銀箔の模様がついている上着と、それに対する目の覚めるような朱色の袴のコントラストが映えて発光しているし、重さをあまり感じない動きなのにもすごい足音を立てるあたりも、女神現れたー!という説得力が大きかった。目付柱というらしい向かって下手の手前側の柱、の延長線辺りで観ていたところ、めちゃくちゃ目が合ってしまったのもある。
ただ、残念なことにシテの言葉が2演目ともほぼほぼ聞き取れず、非常に厳しい時間になってしまったのが正直なところ。動きの少ないバレエ状態。日本語が、というのもあるけれど、囃子方のボリュームが勝ってしまうパターンでした。指揮者がいないで各演者のぶつかり合い、というスタイルをとるもの、だそうなのでそういうものなのかもしれない。とはいえ、「よーっ!」&ポン!が、大事なシーンにかぶったサイレン状態にしか感じられないことも多々あり。修行が足りないのか??いつの日か聞こえるようになるのか??
「歌占」も「三輪」も、あらすじを読んだ時点で最後の舞がとっても盛り上がるめでたい演目、という期待が大きすぎたのか、あれ?意外と動かない、と感じてしまった。これまで観世流しか観たことがなかったから、流派の特徴ってことになるのだろうか。
ということで、もっと観ないとどうにもならない、というのが能を観る度の感想になってしまう。とにかく話の構成がどれも大好きなので数を観ていきたい。耳を鍛えていきたい。