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ヨハネスが髪を染める

 仄あかり程度にされていた部屋に座る私の向かいにヨハネスが座っていたから、色を頼んでみた。彼は一拍、思案する顔をしたが、色なら、と居間を見渡し右手で宙に波線を描き、指を鳴らした。

 地味で暗い色をした居間に黄と青が広がった。こちらを覗うヨハネスに私が頷くと、ふたたび彼は指を鳴らし、黄と青を遠慮なく呼び込んだ。空間をはみでるかのように、至るところをひかりの粒で輝かせながら、目覚ましく広がる黄と、深みを持った青、赤も角からたれて、色彩は力を帯びていった。

 私の指のアクセサリに乗ったひかりの粒たちが弾けあって移動している。ヨハネスのスリッパの先から見える裸足の爪先までそのひかりの粒ははじけ飛んで、粒子と砕け、彼のくちびるや目のなかにも宿った。

 色彩の光景を見ていた私がソファをうしろへ倒すと、背後に廻ったヨハネスが私の髪を整え、そして染めはじめた。手鏡で覗く。私の髪を染めている彼の笑みが見える。その笑みは亡くした父親がそうであったように、ひげをたくわえたらさぞかし似あうだろう、などと思っているうちに眠ってしまった。

 目を覚ましてソファから起き上がり、鏡に顔をよせた。ウルトラマリンブルーに発色するよう仕上げられていたその髪の色に有頂天になった。と、時計が夜八時を打った。気になる生放送もあるにはあったが、鏡の自分に見とれていることにした。



Dedicated to Johannes Vermeer

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