「民族」という話
「民族」という話
大国いわく「ロシア人とウクライナ人は同じ民族だから一つにならなければならない」そうです。
はたしてそうでしょうか。
早期停戦を祈りつつ、
少し考えてみましょう。
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ようこそ。門松一里です。静かに書いています。
いつもは、
「あまり一生懸命になるな」という話
https://note.com/ichirikadomatsu/n/n081dd28c9a6c
とか、
「沈黙」という話/「東アジアの思想」という話
https://note.com/ichirikadomatsu/n/n416e39d84b94
を書いていますが、本当はノワール作家です。
という話(ik)を連載しています。
こちらは調査資料(エビデンス)を使った「思考の遊び」――エンタテインメント(娯楽)作品です。※虚構も少なからず入っています。
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「民族」について定義してみましょう。
どこまで民族に含むかによって、話の内容が変わるからです。
みん‐ぞく【民族】
〔名〕 同じ文化を共有し、生活様態を一にする人間集団。起源・文化的伝統・歴史をともにすると信ずることから強い連帯感をもつ。形質を主とする人種とは別。
――精選版 日本国語大辞典精選版
https://www.weblio.jp/content/%E6%B0%91%E6%97%8F?dictCode=NKKSS
民族は同じ文化を共有する人たちです。注意したいのは人種は別ということです。
同じ民族であれば、人種が違っていてもいいのです。
話は変わりますが、無料で『精選版 日本国語大辞典精選版』が使えるのはスゴイことです。
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世界には多くの民族があります。日本にもアイヌ民族や琉球民族がいます。
その昔、アイヌ民族は北海道・樺太(サハリン)・千島列島(クリール)・カムチャツカ半島・本州の北端部に住んでいました。
本州には朝廷に従わない蝦夷(えみし)という民族がいたので、坂上田村麻呂が征夷大将軍としてこれを討ちました。蝦夷を征伐した訳です。
中央政権にとって「服わぬ民」「順わぬ民」(まつろわぬたみ)は排除すべき案件でしかありません。
でないと、政権の権威が下がってしまうのです。
アイヌ民族については野田サトルの『ゴールデンカムイ』が楽です。また、琉球民族については長くなるので割愛します。
(あまりに悲惨すぎます。)
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さて、ロシア人とウクライナ人ですが、同じスラヴ民族です。ベラルーシ人も。
より詳しくいうと、下記のようになります。※ざっくりとしています。
インド・ヨーロッパ語族(英語やフランス語も含まれる)
バルト・スラヴ語派(リトアニア語やラトビア語も含まれる)
スラヴ語派
東スラヴ語群
・ウクライナ語
・ベラルーシ語
・ロシア語
※他にもあります。
もちろん、これらの語族は話している言葉によって分類されていますから、人種は関係ありません。
ややこしいことにウクライナ人だといっても、東から西へ、ロシア語しか話せない人・少しウクライナ語が話せる人・両方話せる人・少しロシア語が話せる人・ウクライナ語しか話せない人がグラデーションのように微妙な階層になっています。
特に東側は親露的です。ただし、ウクライナ人には変わりません。民族と国籍は別ですから。
それなのに「ロシア人とベラルーシ人の共同体に、ウクライナ人も入りませんか?」と言ってきた訳です。
なぜならウクライナの首都は、スラヴ民族の故郷だからです。
ロシア連邦が本家スラヴ民族、ウクライナが元祖スラヴ民族というような感じです。
本家ロシアとしては、なんとしてでも元祖ウクライナにある故郷を取り戻したいのです。
※蜀漢がどうしても北伐する必要があったのと似ています。#blackjoke
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こうした民族主義がいつごろできたのかというと、つい最近です。
1789年のフランスの人権宣言によって、大衆が民族意識に芽生えた?
そんなことはありません。
汎スラヴ主義は、ロシア帝国が皇帝(ツァーリ)のもとにすべてのスラヴ民族を一つにするための思想でした。
つまり「スラヴ語派の人たちが、古の時代には統一されたスラヴ民族だった」というのは、架空のつくられた歴史です。そんな史実はありません。
スラヴ民族の歴史が、アルフォンス・ミュシャが美化するほど悲惨だったのは事実です。
対して、汎ゲルマン主義という思想がありました。こちらは、ドイツ皇帝ウィルヘルム二世によって政策化された「ゲルマン民族による世界の覇権」です。第一次世界大戦で挫折しましたが、第三帝国に継承され第二次世界大戦となりました。
こうした大国の思考により、愛国心が植えつけられ多くの若者が亡くなっていきました。
ナチスがポーランドにいる他の民族を虐殺したので、ポーランドの民族は第二次世界大戦後ほぼポーランド人になりました。
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汎スラヴ主義という民族主義をかかげている以上、これは世界観戦争(絶滅戦争)です。ウクライナ人がなくなるまでするということです。別に住めなくなってもその故郷を取り戻せばいいので、ロシア側も強気です。
一九四一年三月三〇日、招集されたドイツ国防軍の高級将校たちを前に、ヒトラーは、このように演説している。
対立する二つの世界観のあいだの闘争。反社会的犯罪者に等しいボリシェヴィズムを撲滅するという判決である。共産主義は未来へのとほうもない脅威なのだ。われわれは軍人の戦友意識を捨てねばならない。共産主義者はこれまで戦友ではなかったし、これからも戦友ではない。みな殺しの闘争こそが問題となる。もし、われわれがそのように認識しないのであれば、なるほど敵をくじくことはできようが、三〇年以内に再び共産主義という敵と対峙することになろう。われわれは、敵を生かしておくことになる戦争などしない。
――大木毅『独ソ戦 絶滅戦争の惨禍』(岩波書店、2019年)
平和になりますように。
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本当はノワール作家なんですけれど……。
よかったら♡してくださいな。
ご高覧、感謝です。 サポートによる調査資料(エビデンス)を使った「思考の遊び」――エンタテインメント(娯楽)作品です。 ※虚構も少なからず入っています。