21世紀のベネチアを「大人」の度量で受け止めるために
Reuters TVのニュースで、ベネチア市内中心部への大型クルーズ船の入航が禁止になったことを知る。
世界遺産のベネチアは、オーバーツーリズムや大規模インフラ整備計画による環境への影響を背景に、世界遺産委員会で「危機遺産」への登録が検討されていたが、今回の入航禁止措置を含むイタリア政府の改善に向けた取り組みが評価され、今回の登録は見送られたとのこと。
驚いたのは、この話を伝えるニュース映像。
まあ、とにかくクルーズ船がでかい。こういう船でワーッと観光客がやってくれば、そりゃあオーバーツーリズムの問題が起きるだろう。航行するクルーズ船の波で、運河を進むゴンドラがグラングラン揺れる映像もあった。船酔いしそう。
なによりビックリなのは、入航するクルーズ船とベネチアの街並みとのコントラスト。16世紀のベネチアに、いきなり21世紀のクルーズ船がタイムトラベルしてきました、みたいな絵になってる。
あってはならないものが、とつぜんそこに出現した感じ。
とはいえ、いつも目にする「普通の」ベネチアの風景からは、こうした映像は意図的に排除されているだけの話なので、そうしたビックリ感は、まったくこちらの都合で生み出されたものだということになる。
観光人類学では、そこいらの事情について、ゲスト(観光客)側の「欲望」にかなう形で「伝統」の社会がつくり出される抑圧の関係があるとか、いやいや、ホスト(地元民)の側で、そうしたイメージを主体的につくり上げているんだとか、いろいろと違った視点からの議論がある様子。
そういうむずかしい議論はさて置いて、とりあえず自分としては、今後こうした映像に出くわすことがあれば、「わっ、何だこれは!」と驚くのではなく、「なるほど、意図的に排除された映像も含めて見わたすことができれば、そこにはこのような光景が広がっておるのか」と、広い度量で受け止められる「大人」になることを決意した。