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目は旅をする・後藤繁雄による写真集セレクション

ヴィジュアルの旅は、大きな快楽を、与えてくれるし、時には長編小説以上に、人生についてのヒントを与えてくれます。 このマガジン「目は旅をする」は、長く写真家たちと仕事をして、写真…
後藤繁雄おすすめの写真集についての記事を月に2~3本ずつ投稿します。アーカイブも閲覧できるようにな…
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#アートシンキング

名和晃平写真集『moment photography』/目は旅をする044(写真の未来形)

名和晃平写真集『moment photography』 G/P+abp刊 「写真」は、驚くほどの速度で変成している。何をもって「写真」か?という定義をするよりもその変成する速度は速く、従来の「写真批評」はまるで追いついていけない。 まず新たな視点は、写真は今日、データであり、それをどのように視覚化するかというアルゴリズムそのものになったということだ。 データは目に見えないから、見えるようにしなければならない。 アルゴリズムを設計出来る人間ならばともかく、従来の「写真家」は

ホンマタカシ『CASA BRUTUS 特別編集 マガジンハウスムック TOKYO NEW SCAPES 2015-2021 ホンマタカシ』/目は旅をする043(TOKYO)

ホンマタカシ『CASA BRUTUS 特別編集 マガジンハウスムック TOKYO NEW SCAPES 2015-2021 ホンマタカシ』 マガジンハウス刊 都市と写真の「課題」は、まるで双子のように切っても切れないものとして続いてきた。それは矛盾をはらんだ「問題」を解くというより、いかにして相互的に働き合い「都市の肖像」(ベンヤミン )、つまりある時には、仮面をはぎ、またある時にはユートピックな演出を施すかという作業であったように思われる。 例えば我々は「都市」の名前を写

スティーブン・ギル『Hackney Flowers』/目は旅をする042(地図のない旅/行先のない旅)

スティーブン・ギル『Hackney Flowers』 NOBODY 刊 思えばスティーブン・ギルとのつきあいも長くなったなと思う。G/Pgalleryで一番最初に個展をやった海外の作家であり、その後も数度展覧会を開催した。新聞形式の写真集もabpから出版したこともある。 出会いは忘れられない2007年のこと。 僕はまだG/Pgalleryを始める前で、ParisPHOTOに視察に行っていた。フェアの閉店まで会場にいて、ドイツの書店のシャーデンの連中と合流して晩御飯を食べに

シンディ・シャーマン『Untitled Film Stills』/目は旅をする041(写真は魔術)

シンディ・シャーマン『Untitled Film Stills』 Schirmer / Mosel Verlag Gm シンディ・シャーマンは、現代フォトアートを語る時に、「様々な意味」において最重要なアーティストの一人である。 今時点において、最も高額で競り落とされた「写真」はベッヒャースクール出身のグルスキーだが、10位以内にはシンディ・シャーマンやリチャード・プリンスらがランクインしているし、シンディ・シャーマンの回顧展はMoMAをはじめとする美術館で開催され、つまり

クレイジーグレートマスター!!田名網さんとギューちゃんの本/一日一微発見235

大きな包みが届いた。アーティストの田名網敬一さんからのものだった。 さっそく開けると大判の田名網さんの作品集3冊ともう1冊単行本が入っていた。手紙も添えてある。 「後藤繁雄様  ご無沙汰しています。ずいぶん長いことお会いしていませんが、お元気ですか。最近牛ちゃんとの本を出版したので送ります。他の本もいくつか入れておきます。  田名網敬一」 見るとその方は『LETTER FROM NEW YORK 篠原有司男から田名網敬一へ、50年の書簡集』というものだ

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サイ・トゥオンブリー 『Photographs 1951-2007』/目は旅をする040(魅力)

サイ・トゥオンブリー 『Photographs 1951-2007』Schirmer/Mosel刊 サイ・トゥオンブリーは、1928年生まれ、2011年に亡くなったアメリカのペインターである。ボストンやニューヨークで学び(ブラックマウンテンカレッジでもラウシェンバーグらからも学んだ)、1957年からはイタリアへ移住し制作を続け、80歳を過ぎても精力的に制作を続けた。 詩をキャンバスにドローイングしたり、アブストラクト絵画というカテゴリーでは括れない、独特な「絵画」を生み出

シャーロット・コットン 『The Photograph as Contemporary Art(現代写真論 増補改訂版)』/目は旅をする039(写真の未来形)

シャーロット・コットン 『The Photograph as Contemporary Art(現代写真論 増補改訂版)』 Thames & Hudson刊 今回は写真集ではなく、現代写真論の本を取り上げる。シャーロット・コットンの『現代写真論』(晶文社)をアップデートしたヴァージョンで、日本ではまだ増補改訂版は出版されていないものだ。 僕がシャーロット・コットンに初めて会い、インタビューしたのは、雑誌『エスクァイア日本版』でアメリカ写真特集号(「写真が語る、ニューヨーク

若木信吾SHINGO WAKAGI『HAMAMATSU Edit』01.02/目は旅をする038(風景と人間)

若木信吾SHINGO WAKAGI 『HAMAMATSU Edit』01.02 G/P+abp刊 ある街の、そこにいる人々の日々の顔や声、とるに足らない出来事や、その連なりを記録すること。 その誘惑は、例えばアメリカのスモールタウンを舞台にしたシャーウッド・アンダーソンの名作小説『ワインズバーグ、オハイオ』を産んだり、さまざまなクロニクル形式の「小説」を人々に書かせた。 デビッド・バーンの映画『トゥルーストーリー』も、ジム・ジャームッシュ のいくつもの映画など、挙げればきり

デイビッド・ホックニー『photographs』/目は旅をする037(もうひとつの人生)

デイビッド・ホックニー『photographs』 Pertersburg Press刊 この写真集は、デイビッド・ホックニーが1982年にパリのポンピドゥーセンターで写真展をやった時(45歳の時)に出版されたもので、この企画のために、キュレーターが彼の家を訪ね写真を整理したら、すでに3万枚に達していたという。 初期からホックニーほど、写真と深い関係をもってきた現代画家はいないし、写真がデジタルにより拡張してしまった現在において、彼の写真の思考こそを再検討すべきだと僕には思わ

ルイス・ボルツ 『COMMON OBJECTS』/目は旅をする036(風景と人間)

Lewis Balts ルイス・ボルツ 『COMMON OBJECTS』STEIDL/LE BAL 刊 ルイス・ボルツは1945年にカリフォルニアで生まれ、2014年にパリで死んでしまった。まだ69歳だった。 彼はキャリアは長かったがまだ若かったし、いつかインタビューするだろうなと漠然と感じていたから残念に思った。 僕は2014年に、パリのLE BALでの個展を偶然見た。でもそれが、彼の生前最後の個展になるとは思わなかったが、今となってはその展覧会を見ることが出来て、縁を強

澤田知子『狐の嫁いり』/目は旅をする035(写真の未来形)

澤田知子 『狐の嫁いり』青玄舎/東京都写真美術館刊 2006年に、大阪の現代アートの拠点だったキリンプラザ大阪で澤田知子の写真展『MASQUERADE』をプロデュースした。それ以来、事あるごとに彼女の写真を興味深く見続けてきた。 彼女の作品は、まず1998年に大学の卒業制作として発表された『ID400』(写真集は2000)をあげなくてはならない。僕もその写真集で彼女を知ることになったのだが、これは今を持ってしても傑作だと思う。 『ID400』は実に新鮮で、それまでの「写

ブルース・チャトウィン『Far Journeys』/目は旅をする034(人間の秘密)

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赤石隆明『UNBROKEN ROOM』/目は旅をする033(写真の未来形)

赤石隆明『UNBROKEN ROOM』 artbeat publishers刊(2013) 3.11東日本震災から10年がたった2021年に、小さな展覧会をキュレーションした。 こんな10年後の世界を、誰も予想できなかったろう。covid-19と名づけられたウィルスの感染によって全世界が機能停止した真っ只中だったからだ。 延期された東京オリンピックは、もはや未来の象徴ではなくなってしまった。 ジェームズ・ラブロックの『ノヴァセン』やブルーノ・ラトゥールの『地球に降り立つ』

ヘルムート・ニュートン『Pola Woman』/目は旅をする032(もうひとつの人生)

ヘルムート・ニュートン『Pola Woman』 Schirmer Art Books刊 1992年 『ヘルムート・ニュートンと12人の女たち』(監督ゲロ・フォン・べーム)を見た。映画館で、ちょうど2020年は、ニュートンの生誕から100年がたっていたことに初めて気づいた。 ニュートンが死んだのは2004年1月だった。ハリウッドの常宿にしていたシャトー・マーモントホテルの駐車場で間違えてアクセルを踏んで事故って死んだと聞いた記憶がある。 マーモントには90年代にジャック・